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[Novel:08] -P:08-


「なんでかなあ…」
 呟いた。
 旭希も、鷹谷も。
 どうして自分になんか、執着する?二人ほどの男なら、女だって、きっと男だって、引く手あまただろうに。
 舞台を作ることしか能のない炯。それだって、旭希や鷹谷に見捨てられたら、出来なくなってしまうだろうに。……彼らを必要としているのは、間違いなく炯のほうだ。
 根本的な問題まで戻ってしまった炯は、よいしょ、っと声をかけて立ち上がった。

 ――しかもまだ三十前だってのに、年々体力落としてるしねえ…

 全力疾走の追いかけっこをして、死にかけたのはまだ記憶に新しい話。
 筋肉質で、素晴しいバランスを保っている旭希。
 自分より十近く年上だなんて、信じられないほど鍛え上げられている鷹谷。
 二人に並んだら、さぞや自分は貧弱に見えるだろうと、げんなりしてしまう。

 ――旭希、どうしてるかな…

 今日は、勤めがあるはずだ。ちゃんと行っただろうか?寝ていない顔をしていたけど。……それは、間違いなく自分のせい。
 炯は吸い終わったタバコを灰皿に押し付け、新しいものを咥えた。片手で火をつけながら、ワインを注ぐ。

 旭希の気持ちに応えたら、自分は鷹谷から離れることが出来るんだろうか?こんな、不安ばかりがつきまとう関係に、終止符を打てるだろうか。
「…そうやって僕は、まだ旭希を利用する気でいるんだな」
 死んでしまえ。バカな奴。

 それでもちゃんと、正面から旭希の目を見て。彼の気持ちを受け入れられたら。
 自分でも少しぐらい、旭希を幸せにしてやれるかもしれない。
 ……自分が、旭希にしてもらっているのと、同じように。


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