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[Novel:10] -P:10-


 何を言い出す気だ?と、戸惑う表情を見せた旭希から視線を外し、言う前から少し頬を染めて、炯は息を整えた。
 脚本家なんて仕事をしているが。もう若くもないので、どうにもこういうことを言うのは、苦手。甘い台詞は、自分の思考を混乱させる。
「…一番最初にかっこいい奴がいるなあって思ったのは、中学の入学式だよ。起伏の激しい僕のそばで支えてくれる旭希を、手放したくないって心底思い知ったのは高校の頃。旭希の付き合ってる女の子に嫉妬して、自分に困ったのは大学時代っ!」
「…炯?」
 何を言い出すんだ、と。驚いて目を見開いた旭希は、自分と炯のことだとやっと理解する。かあっと赤くなったのは、炯と同じ。
「一緒に住み始めて、やっと旭希に対する独占欲が、オトモダチに対するものじゃないってわかったんだっ!失いたくないっていう焦燥感を、自覚したのなんかつい最近だよっ!…ったく、嫌なんだってこういうこと言うの!」
 自分の言葉に照れて、キレて、恥ずかしくて死にそうだと、炯は旭希を振り払った両手で顔を覆い隠してしまう。
「…僕より体温が高いとか、重いもの持つ時に肩の筋肉がぎゅうって硬くなるのとか、旭希の声が掠れると色っぽいとか、それで名前呼ばれるとたまんないとか、僕は僕で毎日毎日大変なんだよ!言わせんなバカッッ!」
「バカってお前」
 炯は、旭希を選んでくれた。信じられなくて、怖がっていたのは旭希のほうなんだろう。

 いきなり天から舞い降りた幸運を掴んでしまった旭希。柔らかな心を持つ炯が、友人だった自分を見捨てられなかっただけなんじゃないかと。その可能性を、ずっと捨てられなかった。
 興奮が冷めるごとに冷静になっていく旭希の隣で、炯は反対に少しずつ熱を高くしていたのだ。

 耳まで真っ赤になっている炯が、かわいい。旭希は苦笑を浮かべ、赤い顔を隠す炯の腕を引き剥がして、片手で頭の上に纏め上げた。
「も…やだ。忘れて」
「忘れない」
「意地の悪いこと言うなよ…僕のワガママは聞いてくれるんでしょっ!忘れてくれよっ」
「嫌だ。絶対に忘れない。…炯」
 旭希の手が炯の身体を這って、きゅっと胸の突起をつまんだ。
「あっ、ぁ」
「愛してるよ、炯…」
 わざと、掠れた声で囁く。炯は自分の言葉を証明するかのように、ふるっと身を震わせた。素直な反応に旭希が笑うから。また拗ねた表情になって。
「…だから言いたくなかったんだよ…」
「なんで?こんな、可愛いのに」
「か、かわいいって!三十まであと何年だと思ってる?!」
「歳なんか関係ない。いくつになったって、オレはお前に言い続けるよ、炯…ほらもっと可愛い顔してみな」
 絶対わざとだ、と思うけど。耳朶を噛みながら甘い囁きを零されて、そのまま中を突き上げられる。
「…ん、あぁっ…や、あさきっ」
「お前の中、熱くて狭くて溶けそうだ…」
「あっ…ああっ…」
「やらしい顔してるのが、一番かわいいな」
 つまんだ胸をくにくにと愛撫しながら、旭希が囁き続けるから。たまらずに炯は拘束されている手を振り解いて、旭希の頭を抱き寄せる。
「も、それ…やめなって…!」
「どれだ?胸弄んの?中突くの?」
「言葉!言葉責め禁止っ!」
「却下」
 にべもなく言い捨てられて。反論しようとした炯は、深く突き上げてくる熱いものに悲鳴をあげた。
「ひ、あっ!…あああっ!」
「お前意外と、苛められんの好きだろ」
 旭希はベッドに手をつき、上半身を起こした。炯の足を高く抱え上げ、内壁を余すところなく擦ってやる。激しくなる動きに、濡れたのもが絡み合う音も大きくなって。炯はたまらず自分の髪に指を差し入れ、かき乱した。
「ああっ…あ、あっ…んんっ!やああっ」
 気持ちいい、ということ以外が吹っ飛んでいく。白く弾けて考えられなくなる炯に、ここぞとばかり旭希は淫らな言葉を強要した。

 どこがいいんだ、何をされたい?
 いま、炯の中に何が入ってる?

 快楽に流されて、言われるまま答えを返してくる炯が、それでもなお恥ずかしそうにやめてくれと旭希に縋りつくから。満足そうに笑って、泣き出す前に言葉を納めると、旭希は炯の身体を抱き締めた。
「やぁぁっ…!」
「け、い…っ」
 限界まで緊張に強張った身体が、ぐったりと投げ出される。強く腰をひきつけた旭希も、自分を解き放った。

 荒い息ばかりが聞こえる寝室。
 怒ってないよな?と心配そうに炯の顔を覗き込んだ旭希は、まだ閉じ切らない口元を喘がせる炯に、濡れた瞳で睨まれる。
 力の入っていない、ほっそりした指先で頬を抓られた。それでも炯の瞳が優しく細められたので、旭希も楽しげに笑った。


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