[Novel:03] -P:07-
「っ!」
「ははっ…な、気持ちイ?」
どうせまた、答えられはしないのだろうが。
「コウ、きついって」
「なんだよ……良くねえ?」
「じゃ、なくて!」
聞かなくても、言わなくても。中で量を増し、びくびくと反応する宏之を感じているだけで、充分わかっているのだが。といってやめてしまうのは、あまりに惜しい気がして。
「あっ…ああ…っ、な。言えよ…」
「コ、ウ」
「言えってば…イイだろ?」
年下の恋人に乗っかられて、主導権取られて、ましてや「気持ちいい」なんて。想像するだけで顔から火を噴きそうだ。
「バカ、よせっ」
「なんだよ〜…強情だな…」
ぺろりと唇を舐める赤い舌。宏之の横に手を付いた晃は、顔を近づけ苦しそうな表情を覗き込む。
――かわい〜な〜も〜〜
赤い顔をして。堂々とした舞台上の宏之とは、まるで別人のように。
嫌がり顔をそむけるから、がしっと頭を抱え込んで唇を重ねる。口腔の中で舌まで犯していく濃厚なキス。晃の腰を支えていた手に力が入った。それはまるで、もっと深く抉る為に引き寄せられたようで。
「んっ、ぅ。ああっ!やああッ!」
「く、っ」
「あ、ああっ!」
たまらずに、晃は身体を揺らせて自覚のある弱いところへ、宏之のものを擦り付けた。
「ひ、あァッ!ああっ!」
理性が飛んでしまって、喘ぎ声が止まらない。宏之の大きな手が、まるで縋るように貼りついている。そこから移って来る熱さが、いっそう火のついた身体を燃え上がらせた。
「ヒロユキ、ヒロユキぃっ」
どうしても、奇麗事だけでは生きていけないから。こうして誰かの熱に貫かれ、激しい情に流されている瞬間が、何より生きていることの苛烈な美しさを、晃に教えてくれる。
「コウ、ああっイイッ」
「っ……!ああ、オレも、オレも!」
やっと聞けた宏之の言葉に、晃は頭を振った。
繋がっている、という感覚。
中に宏之がいるリアルなイメージが身体を走り回った。
「や、突いて!なあ、ヒロユキ!」
あれほど何もさせようとしなかった晃のお許しが出て、宏之は上半身を起こす。繋がったままの晃を抱き上げ、ベッドへ押し付けると何度も奥を突き上げた。
主導権を取り戻した宏之のものが、根元まで押し込まれ、半ばまで引き抜かれる。ガクガクと身体を揺さぶられるたびに、濡れたものが擦れ合う音がリンクして、晃の神経という神経を引きずり回していた。
「っと、おく、アァッ!」
宏之の体と、自分の腹の間で擦り上げられていたものが、晃の痙攣する身体に同調して欲情を吐き出した。強く抱いて受け止めてやっていた宏之の方も、深いところに吐精してようやく息をつく。
自分の奥が濡れていく感覚に、晃の力が抜けた。肩に縋りついていた手をずるずる落として、途切れていた酸素を補給する。
張り付いた髪をかき上げてくれる、指の長い手。瞼を上げると同時に、涙が零れたのがわかった。
「コウ……」
「良かった、か?」
笑って聞くから。降参だよ、と。宏之は晃の額に口づけを落とした。
「……ヒロユキ」
「ん?」
「良かっただろ?」
「……ああ」
わかったから。あまり聞かないで欲しい。頬を撫でる手に擦り寄って、まだ涙の溢れている瞳が宏之を見上げている。
「だったら、覚えてて…」
晃がいなくなっても。その時が来ても。
何のことかわからず困惑したままの宏之が、唇で涙を掬い取る。
ゆっくりした呼吸を取り戻した晃は、すうっと遠のく意識に逆らわず、目を閉じた。