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[Novel:14] -P:08-


 笑う鷹谷は、ベッドに腰掛けて炯の上半身を抱き起こした。
「ああっ…や、やめ…っ」
「あれが大した物じゃないことなんか、お前が一番知っているだろう?炯」
「やだ、たかやさんっ!」
「辛かったら、旭希さんに慰めてもらいなさい」
 額に張り付いた髪をかき上げられ、そんなことを囁かれて。信じられないと、炯は目を見開いた。
「なに、いって……」
「心配しなくても、旭希さんはそのつもりでここに居るんだ」
 どういうことなんだと、そんなはずないと必死な表情で旭希を見つめる炯に、旭希は溜息をついて苦笑いを浮かべた。
「ごめんな、炯。そういうことなんだよ」
「な……!なに、いって」
「どうする?お前が嫌なら、オレは帰ってもいいぞ」
「ああ、そうだな。お前が決めなさい。…まあ旭希さんが帰ると仰るなら、朝までこのままだがね」
 何気に酷いことを言いながら、鷹谷は炯の手を拘束していた細い紐を解いてやった。それでも炯の両腕を抑えて、炯が自分で自分に触れることは許してくれない。
 ぽろぽろと涙を零しながら、炯は何度か頭を振って。嫌だと思う気持ちを凌駕しそうなじれったさに、もどかしい両脚を摺り寄せる。
「たかや、さん…」
「何だ?」
「ど…して…?」
 炯は震えて鷹谷を振り返るけど、鷹谷の方はなんでもないことのように、笑みさえ浮かべている。
「お前はこの間から、そればかりだな。そんな風に何でも理由を欲しがっていて、疲れないか?大したことじゃない。お前に必要なのは旭希さんだけでも、私だけでもないんだ。だったらこんなことがあっても、おかしくはないだろう?」
 あっさり言われ、炯は頭を振る。そんな馬鹿な。だってこれじゃ……
「やだ…や…っ」
「炯、都合のいいことは考えないことだ」
「たかやさんっ」
「お前が旭希さんに帰ってほしいと言えば、彼はそうしてくれる。しかしお前はその苦痛から今夜逃れることは出来ないし、旭希さんも今ここで見ているお前を、忘れてなどくれない」
「ふ…、っ!あ、ぁ」
「そうやって、私に媚薬を塗られて。身体を震わせて男を欲しがっている姿は、なかったことになど出来ないだろう?勿論、この私がしないと言った以上お前がどんなに泣き喚いても、旭希さんが帰ってしまえば欲しいものは与えられない」
 泣いて首を振って、どちらも選べないと唇を噛みしめる炯に、旭希は目を閉じた。
「あんまり苛めるなよ」
「あさ、き…」
「鷹谷の言うことなんか、気にするな。お前が忘れて欲しいならオレはそうするし、お前がして欲しいならいくらでもくれてやるから。炯の欲しいものを言えばいいんだよ。鷹谷はこう見えても、お前が本当に傷つくようなことなんかしないだろ。…なあ?」
 旭希の視線に責められ、鷹谷は炯の腕を離した。残念だと言いたげな鷹谷は、大きな手で何度か炯の髪を撫でる。思いがけなく優しい仕草に、ちょっとだけ驚いて。炯は涙に濡れた目を閉じた。
 すぐにでも逃げ出したかったはずなのに、炯はその場に身体を竦め、シーツを握り締める。
 ぎゅうっと手に力を入れる。
 どうしようもなく、身体が熱かった。どっちに抱かれたいかと聞かれたら、間違いなく旭希の名前を上げるけど。そうすることで後ろにいる鷹谷が部屋を出て行ったら、炯はたぶん、今とは違う理由の涙を流して彼の背中に手を伸ばすだろう。
 ……浅ましい、と思う。
 いま炯がいるベッドは、何度も鷹谷の重さを受け止めた、シモンズ社の心地いいベッド。最初に鷹谷に抱かれたときから、この部屋には何度来たかわからない。その場所に、旭希がいる。焼きついている鷹谷の記憶と、甘い旭希の誘惑が身体を苛んでいる。
 しばらく動けずにいた炯は、自分からそばにあった鷹谷の手を掴み、覚悟を決めて顔を上げた。
 じっと自分を見つめてくれている、旭希の視線。息を吸い込んで、ゆっくり吐き出す。
「…あさき…して…っ」
 囁くように小さな声で訴えた炯は、真っ赤になって顔を伏せた。それを聞いた旭希は靴を脱ぎ、着ていたニットを放り出して、ジーンズだけの姿になるとベッドに上がる。クイーンサイズのベッドは背の高い三人を受け入れても、あまり狭さを感じない。
 鷹谷が炯の頬に口づけ、掴んでいる細い指を、そっと自分の手から離した。
「たかやさん…」
「前を向いていなさい」
「おいで、炯」
 手を差し出す旭希は抱きついた炯を受け止めてやって、ジーンズの前をくつろげた。
「すぐに欲しいか?」
「ん…。も、むり…」
「ったく…どれくらい放っておかれたんだよ」
 じろりと炯の肩越しに鷹谷を睨んでやる。鷹谷は肩を竦めて笑っているだけだ。


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