二人とも懐が深くて、器の小さい時雨など、あっさり包み込んでしまう。
「ん、んっ…しぐれ…」
何度か桜太の唇を啄ばんだ時雨は、桜太を抱いたまま立ち上がった。
二つ並べて敷かれている布団の、片方に桜太を寝かせて。同じ布団に横になった時雨は、腕を回し華奢な身体を抱き寄せた。 桜太が時雨と毎日を共にするようになってから、一度も床を共にすることはなかったけど。
今日は、今夜だけはこの暖かい身体を抱きしめて眠りたい。
唇を重ねるほど愛しく思う身体を抱きしめているのに、少しも欲情など沸いてこないのが不思議だ。ただこうして、腕の中にいて欲しいだけ。
一時の感情よりも、ずっとかけがえのない、大切なものに触れている気分。
「時雨?」
「まだ眠くないかい?」
「ううん、眠れるよ。時雨は?」
「ん〜…なんだか、少し疲れた…」
「今日はたくさん話したからかな…」
「ああ…そうか。そうだね」
にこりと笑う桜太の、いとけない腕が時雨を抱きしめてくれる。
「おやすみなさい、時雨」
「ん…おやすみ」
二人が抱き合って、目を閉じて。まどろみに身体を委ねたとき……荒々しい足音が、相模屋の階下から近づいていた。
<<ツヅク>>