■ 時雨の葛藤
出来るはずがない、と、時雨は何度も自分に言い聞かせている。
息子は賢い子だし、桜太は自分に一途なのだから。そんなこと、出来るはずがない。しかし不安が拭えない時雨は、ようやく自分が「桜太は自分を裏切らない」と信じきっていることに気づいた。
我知らず、桜太の存在に依存している。腕の中に桜太が居てくれたらと願っている。
しかし、妻のようにまた失ってしまったら?しかも息子よりも年下で?
大いに悩む時雨だが、桜太に「どうして信じてくれないの?」と切なく訴えられた時のことを思い出し、覚悟を決めて息子と桜太の元へ飛び出していった。
(しかも相手は男の子で、バックには圭吾さんがいるんですよ時雨さん)
■ 時雨と桜太と息子
居場所のない家にも行った。二人がどこへ行ったのか、必死に尋ねた。いつものように嫌味なことを言われても、怯まなかった。
茶屋へ行ったことを突き止めた時雨は、焦って乗り込んでいく。中に居た桜太は上衣を肌蹴させていた。激怒した時雨は傍に居た息子の胸倉を掴み上げた。相手は愛する息子だ。暴力こそ振るわないが、何のつもりだと責める時雨は、とうとう「桜太は自分のものだから手を出すな」と言い放つ。
にやりと笑う息子。
「ようやく覚悟を決めましたか」そう言われて、時雨は自分が息子の策にハマったことを知る。
息子が帰って行った後、時雨は強く桜太を抱き寄せた。
「いつか、もっと大人になって。自分がいらなくなってしまう日が来るだろうけど。その時はきっと、情けなく惨めに取りすがるから、切り捨てられる強さを身につけるんだよ」
苦笑いを浮かべて囁く時雨に首を振って、桜太は「ずっと自分が時雨を守るから」と言葉を返した。明日も、明後日も。約束すると。
自分でいいのかと聞く時雨。時雨がいいのだと答える桜太。
桜太の小さな身体をそっと横たえて、時雨は「どんな酷いことをされても?」と尋ねる。
「どんな酷いこと、されてもいい…」
息を吐くような桜太の熱い答え。時雨はゆっくり桜太の身体に……
(……身体に?)
■ エンディング
……身体に、触れようとしたその時に、圭吾が乱入してくる。室内の様子を一瞥して、怒り爆発。
「何してやがる!」「まだ何もしてないでしょうが!」「まだって何だまだって!」
壁に時雨の身体を叩きつける圭吾は、目が切れ上がって鬼の形相。
「お前みてえな危ない奴に預けてられるか!桜太はつれて帰る!」「ちょ、待ちなよ圭さん、落ち着きなってば!」「落ち着いてられるか!」「何もしてないって言ってんでしょうが!」「うるせえ!てめえは、朔だけじゃ飽き足らず桜太まで!」「ちょ、あんた朔のことまで蒸し返すのか?!」言い合う二人は朔の話題になって、同時に朔の方を振り返るが。
朔は少し離れたところに桜太を座らせ、正面に自分も座って桜太の手を握っていた。「いいですか?」と、どこか神妙な面持ち。
「時雨さんは慣れていらっしゃるから大丈夫だと思いますけど、桜太は初めてなんですから。出来るだけ身体の力を抜いて、時雨さんにお任せするんですよ?終わってからどこか痛かったら、時雨さんにちゃんと話してこの薬を塗ってもらいなさい。恥ずかしいことじゃないんですから、必ず二人で話し合うんですよ」
なんてことを諭しながら、何か膏薬を渡している。圭吾の怒りは頂点になった。
「そういうことじゃねえええッッ!!」
「だって。好きな人と一緒に居るのが、一番幸せなんですから。ねえ桜太?」
「うん!」
力強く頷き、時雨の元へ駆け寄ろうとする桜太は、手を広げて待っていてくれる時雨に触れる直前、圭吾に捕まり引き離される。
「絶対駄目だ!貴様なんかに桜太はやらんッッ!」
「……馬に蹴られて死んじまうよ圭さん」
「え!兄ちゃん死んじゃうの?!」
……大騒動の、大団円。(笑)