【君が待っているからA】 P:13


「思春期の子供は、身体の成長とホルモンのバランスが取れず、精神的な不安定に陥る。誰にでもあることだ。気にすることはない」
「惺…なに、言って…」
「あと数年もして落ち着けば、自分の愚かさに気づくだろう」
「俺は惺が好きだって言ったんだよ?!」
「そういう年齢にありがちな思い込みだ。忘れてしまいなさい」
 話は終わったとばかりに、惺が立ち去ろうとするから。俺はベッドから飛び降りて、細い身体を捕まえた。
「惺っ」
「離しなさい…お前はもう、部屋に戻って休むといい。今夜のことは忘れて、ゆっくり眠りなさい」
「待ってよ、なんでそんなこと言うのっ」
 ぎゅうっと抱きしめる俺には、わかってた。このまま離して、部屋へ戻ったら。惺は絶対、いなくなるって。
 俺が起き出したとき、この部屋から惺は消えているだろう。
 そんなの絶対に嫌だ!
「俺は惺が好きなんだ。他には何もいらない。誰も欲しくない。…思い込みなんかじゃないんだ…惺、わかってよ」
「…………」
「答えをくれなくても、迷惑だって言ってもいいけど。そんな風に、俺を否定しないで」
 父さんに捨てられて、母さんにも捨てられて。それでも俺は平気だったけど。惺に否定されたら、俺の存在はなくなっちゃうんだ。生きていられなくなるんだよ。
 何も言ってくれない惺を前に、うっすらとした絶望がどんどん広がっていく。力が抜けてって、俺は膝をついてしまった。
 それでも惺の手が離せなくて。
「…どうして何にも、言わないの…」
 惺の手に縋りついたまま、顔を上げた俺はそっと握ってる指に口付けた。
「惺…俺が、いらない?」
 口付けた指に舌を這わせると、急に惺はびくっと震えて顔を背けてしまう。
「…惺?」
「離しなさい」
「なんで?…惺、気持ちいい?」
 舌を這わせた指を咥えて、さっきまでの愛撫を思い出すように、ちゅっと吸った。惺が身体を固くしてるの、伝わってくる。
「震えてるね…怖い?それとも、さっきまでのいやらしいこと、思い出した?」
「直人っ」
 振り払おうとする惺の手を強く握った俺は、そのまま手を引いてブランケットごと惺を床に押し倒すと、ベッドでしていたように圧し掛かった。
「俺とのセックス、気持ち良かった…?」
「馬鹿なことを、言うんじゃない」
「だって惺、気持ち良さそうだった。ねえ俺の心はいらないの?迷惑?だったらさ、惺…身体は?」
 きっと正気じゃなかったんだろう。俺はおかしくなってる。
 このまま惺の手を離して、また一人になるのが怖かったんだ。だって今度は、誰も助けに来てくれない。
 惺以外の人が、いくら手を差し伸べてくれたって。俺は死んじゃった方がいいんだから。
「好きだよ…惺がいなくなったら、俺はきっと死んじゃうんだ」
「何を言って…!」
「なんで?簡単だよ。あの時みたいに、ここでじっとしてる。何も食べずに、何も飲まずに、じっと座ってれば死ねるよね」
「直人やめなさいっ」
 死ぬって言葉に、惺は過剰な反応を見せた。眉を寄せて首を振るから、俺はそんな惺の頬を両手で包んで、唇を合わせる。
「惺…ねえ、身体だけでもいいから、俺を繋いでて」
「っ…直人」
「いくらでも気持ち良くさせてあげるよ。またさっきみたいな声で、俺のこと呼んでよ…いらないなんて、言わないで。俺を置いていかないで…」
 甘える俺に、苦しそうな表情で首を振るけど。知ってるよ?惺は死にそうな子供を見捨てたり、出来ないんだよね。
「嫌なの?俺が死んじゃった方がいい?」
「やめなさい…」
「じゃあ惺の身体、俺にちょうだい」
 毛足の長いラグの上で、俺は惺の身体からブランケットを剥ぎ取った。間接照明に浮かぶ身体に触れて、惺を見つめる。
 唇を寄せると、惺は諦めたように目を閉じてくれた。
 惺、惺。
 愛してるよ。
 惺以外、俺はなんにもいらない……



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