ナツが俺の頭をかき混ぜるとき。アキが俺の背中をさすってくれるとき。
二人はきっと、泣いてる俺に心を痛めてくれてると思うから。二人が大好きなら、俺は自分が笑えるように、努力しなきゃいけない。
「惺にもわかればいいのにね」
「どうだろうな…あいつは相当の頑固者だからの」
顔を顰めるじいサマを見て俺が笑うと、ちょとだけほっとした表情で、じいサマも笑ってくれる。
ほら、ね?
俺はやっぱり一人じゃないよ。
「ねえ、じいサマ。俺にこの写真、貸してくれない?絶対に返すから」
「その写真?…どうするんだね」
「惺と、ちゃんと話がしたいんだ。…俺に出来ることがあるんだったら、してあげたい。惺が俺を好きにならなくても、利用するだけでもいいよ。俺は惺を幸せにしたいんだ。…惺がそれを、望まなくても」
俺の言葉に、じいサマは驚いた顔になってしまう。それから、むすっと不機嫌になったかと思うと「まったく、わかっとるのかわかっとらんのか」って。ひとり言みたいに愚痴ってた。
「じいサマ?」
「構わん構わん、とっとと持って行け」
「うん。ありがとう」
俺に進むべき道を示してくれた、じいサマの大事な写真。
じいサマが額から取り出してくれた小さな写真を制服の上着に仕舞って、顔を上げた。
「じゃあ、行くね」
「ああ。車を出すか?」
「ううん、大丈夫。こないだ忘れてった自転車で帰るよ。ちゃんと考えてから喋んなきゃ、また惺に誤魔化されちゃうし」
「覚悟して立ち向かえ。強敵だぞ」
「わかった。…あれだよね?勝負というものは、より多くの想定を考えられた者が勝つ。でしょ?」
じいサマが昔、俺とナツアキに教えてくれた、ゲームの極意。
にやりと笑ったじいサマは、頑張れって俺を送りだしてくれた。
駆け足で書斎を出て行く俺に「大きくなったな」って呟いた声は、聞こえなかったけど。
<ツヅク>