【君が待っているからD】 P:11


 尋ねてくれる惺の声が、ちょっとぼやけて聞こえた。眠いのかな?今日はかなり疲れさせちゃったから。
 きっと不死の身体でも、精神的な疲れは同じなんだろうと思うんだ。こういうのって、傷が塞がったり熱が下がったりするのとは違うから。
「全然。あったかくて気持ちいい」
「そうか…」
 惺の腰に手を回して、布越しに痣に触れたら、ぴくんって惺が震えた。
「いたずらしてないで、早く寝なさい」
「うん…ねえ、惺?」
「なんだ」
「痣…触ってていい?」
 ぼんやりした目を、急に鋭くして睨まれる。でもなんか、いつもの迫力がないよ。眠いんでしょ。
「触るだけだよ。それ以上は、絶対に何もしないから」
「…約束できるか?」
「うん」
 俺が頷くと、惺は仕方なさそうに息を吐いて、布団の中で俺の右手を掴んだ。
「惺…」
 そのまま自分の腰へ導いて、自分で服の中へ入れてくれる。包帯の巻かれた手を痣に当てると、惺の手は柔らかく俺の腕を押さえた。
 惺の指先がじれったそうに俺の袖を弄るのって、無意識?
「したいね…惺」
「直人」
 諌める声に、くすっと笑ってしまう。
 惺だって欲しがってるくせに。
「しないよ」
「当たり前だ」
 そう言うけど、惺の足。ゆっくり俺に絡んでるの……気づいてないの?
 あんまり誘惑しないでよ。我慢できなくなるじゃん。
「なおと…」
「うん?なに」
「…いいんだな…?」
 その曖昧な言葉が何を指しているのか。
 今の俺では、正確に言い当てることが出来ない。

 このまま何もせずに、寝てもいいのかって、それだけの意味なのか。
 惺の数奇な運命に、俺を巻き込んでもいいのかって、そういう意味なのか。

 わかんないけど。
 でも惺が「いいか?」と問うことに、俺が否と答えることはないよ。絶対にね。
「いいよ、惺。愛してる」
 俺が囁くと、惺の息が安心したかのようにすうっと深くなった。
 俺も惺の胸に頭を押し付けて、静かに目を閉じた。惺の鼓動が聴こえてくる。
 おやすみなさい、惺。
 明日も明後日も俺は、そばにいるよ。


<<ツヅク>>