【君に逢いたくて〜弐〜】 P:08


 腰を支えてもらっているからと、無防備に膝を上げ、圭吾に擦り寄る。圭吾に腰を押し付けているかのようで、いっそう淫らだ。
「してやるから、慌てるな」
「や…はや、く」
「ああ。わかったから…。…朔、なあ。舐めて欲しいのか?」
「ん…」
「俺は舐めて欲しいかと聞いてる」
 意地悪な問いかけを、理解するだけの余裕がない。朔の指がじれったそうに鉄格子へ絡みつく。細い身体は甘えるように揺れていた。
「…あ、んっ」
「朔…ほら、言いな」
「あぁ、も…なめ、て…」
 素直で拙い、甘える声。圭吾は口の端を吊り上げる。
「…いい子だ」
 透明なものを零している先に舌を押し当て、圭吾の舌先が割れ目を弄った。
「ああっ…」
 高く啼いた朔のものは、圭吾の口の中で熱く震えた。もう熱くなっているものを口に含み、根元から先まで何度もしゃぶってやりながら、圭吾はじっと朔の様子を見ていた。
 意識を飛ばしてしまっているのだろう。見たこともないような蕩けた表情で、朔は何度も何度も自分の唇を舐めている。
 濡れた赤い唇と、桜色に染まった肌。甘い吐息を零している朔の後ろに、黄金の月。藤紫の長小袖をまとう姿は、まるで天女でも犯しているかのようだ。
「あ、ああんっ…や、もう…」
「いいぜ、出しな」
「だめ、いやです…はなし、て…っ」
「いいから出せ。俺の口をあんたので汚すんだ」
「いや、いやぁっ…」
 身を捩り、嫌だと泣くくせに。圭吾の言葉に責められて、とうとう朔は言われるまま、その口の中へ放ってしまった。潔癖な朔が嫌がるのは、わかりきっていたことだ。酔ってでもいなければ、絶対に拒絶しただろう。
 朔を見上げれば、彼は恥ずかしそうに顔を歪め、圭吾を見つめている。見せつけるように嚥下した圭吾の喉元を見て、ついにぼろぼろ泣き出した。
「…今更だろ」
「ふっ…く…ひっく」
「なんだよ。初めてじゃねえぞ?」
 飲んだのは。言ってやるのに、朔は頭を振って、子供のように泣きじゃくった。
「ひ、ぅっ…だ、て…」
「どうした」
「だって…いやだって…っ」
「あんたが嫌がるからって、俺に止めてやる義理はねえだろ」
「ふぇ…っ…や、て…ったのにぃっ…」
 手を縛られたままずるずると身体を落として、圭吾の腕の中へ下りてきた朔は、顔をくしゃくしゃにしながら訴える。
 嫌だと言ったのに。
 離してと頼んだのに。
「ひっく…ふ…」
「ああもう、そんな泣くことねえだろうが」
「ひどい…っ…」
「…朔?」
「やっ…ひどいっ…ひどい」
 困惑する圭吾は拘束していた紐を解いてやる。手が自由になった朔は、驚く様な軽さで圭吾に縋り付いてきた。圭吾が戸惑いながら髪を撫でてやると、目を赤くした朔は圭吾の首に手を回し、本格的に声を上げて泣き始めた。
 思わぬ姿に苦笑を浮かべ、圭吾は腕の中に朔を抱きしめる。
「おい、朔?」
 酒のせいで熱くなっている身体。泣いて甘えて、圭吾を責める甘い声。抱きしめたまま髪を撫でてやっているうちに、しゃくりあげる声は小さくなり、いつの間にか沈黙に変わって、とうとう寝息を立て始めた。
「…ぷっ…あははは!」
 笑いながら、圭吾は朔の身体を抱き上げ、布団に運んでやった。着せていた藤紫の長小袖を脱がせ、その身体にふわりと掛けてやる。離れがたく何度か頬を撫でていると、朔が擦り寄るように圭吾の手へと懐いてきて。
「酔っ払ったときだけ、可愛いんだなあんたは。…まあ、どうせ覚えてられねぇんだろうけどよ…」
 勿体無いと思いながらも、ゆっくり手を引き離す。

 朝になればおそらく、何も覚えていない。だか、いつもはいなくなっているはずの圭吾がいることで、蘇る記憶もあるだろう。きっと朔が己の醜態を知ったなら、自ら喉を引き裂くほどに後悔するから。
 ……しかし目覚めたとき、圭吾さえいなければ朔は、なくなった記憶に首を傾げるだけで済む。


 圭吾は立ち上がり、扉を抜ける。
 手にした錠を暫く見つめて、結局鍵は通さずに扉へ引っ掛け、洞窟の闇の中へ消えていった。