【君に逢いたくて〜弐〜】 P:07


 髪を掴まれ、頭を上げさせられると、圭吾の唇が朔に降りてきた。夜気に凍るほど冷たくなっている鉄格子を背中へ押し当てられ、朔の華奢な身体はどんどん冷たくなっていく。凍える身体には、圭吾の唇が熱いくらいだ。
 思わず熱を求めて顎を上げてしまった自分を恥じるように、朔の頬が赤く染まる。嫌がって首を振ろうとした朔は、圭吾に頬を押さえられた。
「考えるな」
「や…いや…」
「何も考えるな朔。欲しがってればいいんだ。俺の手が、あったけえんだろう?」
 するりと衿の間から入り込んだ圭吾の手は、確かに温かくて泣きそうになる。身体が彼を求めて疼いているのがわかった。
 重なった唇の中で、圭吾の舌は朔を誘うように何度も何度も、口の中を舐めまわす。じっと自分を見つめる獣の目が怖くて、朔は瞼を閉じた。
 くちゅくちゅと、圭吾が誘惑する濡れた音。冷え切った身体をまさぐる手がどうしようもなく熱くて、脳が痺れていく。

 ここへ閉じ込められてから、本当に数度のことだが、圭吾は今日のように静かだったことがある。何も言わずに朔を見つめ、闇に目を遣って、黙ったまま酒を傾ける夜があった。そんな日ほど、圭吾の手は優しくなる。朔を惑わせる。
 縛り上げられているのに。
 立ったまま鉄格子に押し付けられ、身体を陵辱されるのに。投げかけられる酷い言葉を裏切って、圭吾の手は温かく朔を包み込んでいた。

 今までされたことを、一時でも忘れてしまいそうな自分が怖い。たかが快楽などに酔って、自分の目的を見失いそうな時間が怖い。いっそいつものように、残酷な手が欲しかった。朔の気持ちなど踏みにじって、自分のことしか考えないままの圭吾でいて欲しい。
 そうでなければまた、朔の弱い心は甘えに身をゆだねて、いつまでも諦められずに割り切ることが出来なくなってしまう。

「ん…ふ、んっ…っ」
 崩れてしまいそうな膝を何とか支えようとして、朔は足元にあった何かを弾いてしまった。
「あ…っ」
 それが圭吾の徳利だと気付いた朔は、思わず圭吾の唇から離れ、とくとくと中の酒を零す様に目を奪われる。
「構うな」
「ぁ…んっ!ああっ」
 圭吾の手が大胆に朔の裾を割って、白い足を抱え上げた。
「酒なんか、どうでもいいだろ」
「でも…」
 食べ物や飲み物を粗末にするのが、どうしても神経に障る。
 気になってしまう朔に、圭吾はふっと意地の悪い笑みを浮かべた。
「そんなに気になるのか?…じゃあ、あんたが飲みな」
「え…?」
 圭吾は一度抱え上げていた朔の足を離し、転がっている徳利を拾い上げた。自分の口に酒を含んで、そのまま朔の顎を捕らえると、嫌がるのも構わず重ねた唇の中へ、流し込んでくる。
「んんっ!……っ、ぁ」
「まだ残ってんだろ。ちゃんと飲めよ」
「や、いやっ…やめて下さいっ」
「煩せえ口だな」
 何度も何度も。酒がなくなってしまうまで、無理矢理口移しで酒を飲まされる。朔は立っていられずに、圭吾の腕で支えられていた。
 酒は苦手だ。
 自分から飲むことなどめったにないし、口をつけてもすぐ赤くなってしまう。圭吾が飲ませる酒は、優しい飲み口を裏切る強さで、すぐに朔の思考を鈍らせた。
「…へえ。あんたに飲ませたことはなかったが、やけに色っぽいんだな。今まで知らなかったとは、随分勿体ねえことしたもんだ」
 ふわっと。いくらも経たぬうちに、朔の全身は桜色に染まっていった。軽い身体を片手で支えてやりながら、圭吾は朔の姿を眺めていた。
 乱された着物から露わになっている白い肌は、足先までほんのり染まって艶めかしい。必死な様子でまばたきを繰り返していたくせに、しだいとその瞳はとろりとした表情を見せ始める。
 圭吾は朔の身体を立たせたまま、ゆっくりと膝を折った。
「いい色だ」
「は…ぁ、ああ…あ、ん…」
 裾を開き、半端に勃ち上がっているものを口に含んでやると、今までになく朔は甘い声を上げた。
「あん…ああ、っ…あ」
「朔?」

「ぅん、ふ、あっ」