[Novel:01] -P:02-
俯いてしまう宏之の表情は困りきっていて、彼が自主的に隠しているわけじゃないことなど容易に知れたけど。もちろん、宏之にそんなしょーもないことをさせているのなんて、二階堂以外にいるはずもないって、それもわかっていたけど!
問題はそーいうことではなくて!
晃が「聞きたい」っつってるのに、あろーことか宏之が黙ってる!という「そこ」なのだ。
「誰って聞いてンじゃん」
「………」
「なに、シカト?」
「違う」
「じゃあ何?誰?オレからちゃんと言うって何言うの?」
矢継ぎ早に質問を浴びせかける晃に、宏之は小さく「ごめん」と呟くだけだ。俯いて、床を見つめる宏之には何か事情があるんだろうけど。一瞬にしてかあっと血が昇ってしまった。
本当に、人間何年生きても大して成長しない見本のようだが、晃は一端アタマに血が昇ると、必ず絶対、言わなくていいことを言い、しなくていいことをやらかす。
きれいな顔を最大限に活かして生きてきたから、晃のワガママは大概聞き入れられたし、あまり強く咎められた記憶もなかった。甘え上手なのだろうが、本人に自覚がないのだから凶悪以外の何物でもない。
まあ、だから。
いきなりとんでもないことをするのは、いつものこと。きゅうっと唇を噛んだ晃は一端放り出した宏之の携帯を拾うと、思いっきり玄関へ向けて投げつけた。
「コウ!」
慌てた宏之が立ち上がろうとするが、その肩を押さえつけて逃がさない。
見に行くまでもなく、あれだけ「げしょっ」とか「ぱきゃっ」とかいう音がしていれば、コンクリートに投げつけられた携帯が大破していることなど、火を見るより明らかだ。
「ごめんって何?なんだソレ?謝れば済むとか思ってる?誤魔化した気?ありえなくね?バカじゃねーの?」
「…落ち着けよ」
「オレは落ち着いてるよ!それとも何?よく考えろって?オレに言えない女がいるんだから、察してとっとと出て行けとか、そういうの?」
「コウ!」
勝手なことばかり言い募る晃の腕を掴んで、宏之は少し強く自分の方へ引き寄せた。でも、思いっきり振り払われてしまう。
激昂した顔を見るまでもなく、晃の頭ン中がぐしゃぐしゃになってしまっていることぐらい、想像がつく。
普段はどちらかというと勘が良く聡いタイプなのだが、こうなってしまったらもう何を言ってもムダだ。どうせ聞いてやしない。
「お前いっつもそうだよな!そうやって黙ってさ、嵐が過ぎてくの待ってんだよ。言いたいことも言わないで、温厚そうなカオして!卑怯だと思わねーの!まさか優しさだとか思ってる?!バッカじゃねーの!」
晃が悲鳴のように叫んだところで、宏之はゆっくり立ち上がった。突然視界を塞がれて、びくりと細い肩を震わせる。背の高い宏之が目の前に立ってしまったら、晃なんて子供のようなものなのだから。
……さすがに言い過ぎは自覚しているので。今日こそは殴られるか、怒鳴られるか。目を瞑って身構えた。
なのに。
「…え?」
一言も、何も言わないで。宏之は静かに離れていくのだ。
呆然と見送る晃を振り返りもしないで。
「ヒロ、ユキ…?」
背の高い、宏之。痩せた身体は筋肉質で、余計な肉などどこにもないせいだと知ってる。肩幅が広くて、縋りたくなるような背中。それが離れていく。
なにも、晃を咎めずに。
何ひとつ言い訳もしないで。
宏之が拾った携帯は、無残なくらいに壊れていた。溜息をつく。変えたばかりなのだから、当然だ。
「なんとか、言えば……?」
こんなになってもまだ素直になれない晃を、振り返らなかったから。
「アタマ、冷やしてくる」 俯いてしまう宏之の表情は困りきっていて、彼が自主的に隠しているわけじゃないことなど容易に知れたけど。もちろん、宏之にそんなしょーもないことをさせているのなんて、二階堂以外にいるはずもないって、それもわかっていたけど!
問題はそーいうことではなくて!
晃が「聞きたい」っつってるのに、あろーことか宏之が黙ってる!という「そこ」なのだ。
「誰って聞いてンじゃん」
「………」
「なに、シカト?」
「違う」
「じゃあ何?誰?オレからちゃんと言うって何言うの?」
矢継ぎ早に質問を浴びせかける晃に、宏之は小さく「ごめん」と呟くだけだ。俯いて、床を見つめる宏之には何か事情があるんだろうけど。一瞬にしてかあっと血が昇ってしまった。
本当に、人間何年生きても大して成長しない見本のようだが、晃は一端アタマに血が昇ると、必ず絶対、言わなくていいことを言い、しなくていいことをやらかす。
きれいな顔を最大限に活かして生きてきたから、晃のワガママは大概聞き入れられたし、あまり強く咎められた記憶もなかった。甘え上手なのだろうが、本人に自覚がないのだから凶悪以外の何物でもない。
まあ、だから。
いきなりとんでもないことをするのは、いつものこと。きゅうっと唇を噛んだ晃は一端放り出した宏之の携帯を拾うと、思いっきり玄関へ向けて投げつけた。
「コウ!」
慌てた宏之が立ち上がろうとするが、その肩を押さえつけて逃がさない。
見に行くまでもなく、あれだけ「げしょっ」とか「ぱきゃっ」とかいう音がしていれば、コンクリートに投げつけられた携帯が大破していることなど、火を見るより明らかだ。
「ごめんって何?なんだソレ?謝れば済むとか思ってる?誤魔化した気?ありえなくね?バカじゃねーの?」
「…落ち着けよ」
「オレは落ち着いてるよ!それとも何?よく考えろって?オレに言えない女がいるんだから、察してとっとと出て行けとか、そういうの?」
「コウ!」
勝手なことばかり言い募る晃の腕を掴んで、宏之は少し強く自分の方へ引き寄せた。でも、思いっきり振り払われてしまう。
激昂した顔を見るまでもなく、晃の頭ン中がぐしゃぐしゃになってしまっていることぐらい、想像がつく。
普段はどちらかというと勘が良く聡いタイプなのだが、こうなってしまったらもう何を言ってもムダだ。どうせ聞いてやしない。
「お前いっつもそうだよな!そうやって黙ってさ、嵐が過ぎてくの待ってんだよ。言いたいことも言わないで、温厚そうなカオして!卑怯だと思わねーの!まさか優しさだとか思ってる?!バッカじゃねーの!」
晃が悲鳴のように叫んだところで、宏之はゆっくり立ち上がった。突然視界を塞がれて、びくりと細い肩を震わせる。背の高い宏之が目の前に立ってしまったら、晃なんて子供のようなものなのだから。
……さすがに言い過ぎは自覚しているので。今日こそは殴られるか、怒鳴られるか。目を瞑って身構えた。
なのに。
「…え?」
一言も、何も言わないで。宏之は静かに離れていくのだ。
呆然と見送る晃を振り返りもしないで。
「ヒロ、ユキ…?」
背の高い、宏之。痩せた身体は筋肉質で、余計な肉などどこにもないせいだと知ってる。肩幅が広くて、縋りたくなるような背中。それが離れていく。
なにも、晃を咎めずに。
何ひとつ言い訳もしないで。
宏之が拾った携帯は、無残なくらいに壊れていた。溜息をつく。変えたばかりなのだから、当然だ。
「なんとか、言えば……?」
こんなになってもまだ素直になれない晃を、振り返らなかったから。
「アタマ、冷やしてくる」