[Novel:01] -P:04-
すぐ近くにコンビニがあって、そこにバイトで入ったのが三年前。
時間が止まったとき、確か17歳だったと思う。残念ながら世界中どこへ行っても、先進国と言うのは17歳に優しくない。なので仕方ないから、18歳だと偽っている。
まあ17歳にしても童顔な晃だが、ぎりぎり18歳に見えなくはない。履歴書も身分証明書も、その気になればいくらでも手に入る。
バイトに入った日から、三年のカウントダウンを始めていた。
自分で決めたリミット。同じ場所で生活するのは、どうしても三年が限界だった。三年を越えれば、誰かしら晃の変わらない容姿に疑問を持つ。
マゾではないので、バケモノと糾弾され、石を投げられるような事態は、出来るだけ回避したい。
大体が何事も、ほとんど覚えていないのだから勘で動くしかないだ。例の「探しモノ」だって。同じ場所にいるのがたった三年では、出会わない可能性だってあるのだが。
運命の人、とか言うくらいだから、きっとたぶん、どっかしら惹かれたりするんだろうと。すれ違えば気付くんじゃないかとか。勝手なことを考えているに過ぎない。
宏之は、コンビニの客だった。
笑えることに、初めて会った時から彼の姿だけが、やけに鮮明に見えた気がした。宏之以外の世界が一瞬、霞んでしまったくらいに。
初めて会った日、レジを済ませ、商品を受け取った宏之の手を、咄嗟に掴んでいた。
そして掴んだ自分に心底驚いた。
いくら晃が能天気だと言っても、さすがに色々と後ろ暗いところがあるので、普段から目立つ行動には気をつけていたはずなのだから。
自分に驚いて、顔を上げた。
さすがに宏之も驚いていた。
思わず頬に血が昇って、すぐに離す。
おずおずと上げた視線の先では、宏之まで赤くなっていた。
――新しく入った人?
最初に交わした言葉。
話しかけてもらえたのが嬉しくて、当社比2.5倍くらいには愛想が良かったはずだ。
――そう、今日から。
短く返すと、宏之は優しい表情を見せてくれた。たぶんあの時に、晃の方はもう宏之を特別な存在だと認識してしまっていたのだろう。「じゃあ、これからもよろしく」と微笑んで、受け取りそこなっていたコンビニの袋を手にレジを離れた後姿を、まだ覚えているぐらいなのだから。
晃がよほど別れがたいと訴える目でもしていたのか、宏之は振り返って
――常連だから。また。
と短い言葉で自己紹介を済ませ、店を出て行った。
いま思えばきっと、彼にとって驚くほどの積極性だったろう。本当に彼は無口で、言わなければならないようなことも言えないタチなのだから。
ヒロユキ、という名前を聞き出すのに一週間かかった。
劇団に入っていて、役者をしていることを聞き出すのに一ヶ月。
一ヶ月半後、役者を目指すきっかけになった舞台の話を聞いたのは、宏之の腕の中。
晃にしては手間を掛けた方だ。時間に制約があるから、早い時なら出会ったその日に同じベッドにいることだってある。
何度目か、肌を重ねた夜に宏之の身体を隅々まで探った。どこかにあるはずの痣を探すために。
あるはずだと、あって欲しいと祈って。
舌でたどり、唇を押し付けて。セックスの遊びだと言い訳をする晃が、爪先から足の付け根まで舐め上げると、宏之はたまらなそうに晃の柔らかい髪を撫で、引き寄せた。
咥えたものが大きく存在を主張するたび、頭の中が真っ白になって身体が熱くなった。そんなことはしなくていいと抱き上げられたら、痣を探していたことなんか簡単に吹っ飛んでしまう。
経験したことがないほどの熱で身体を火照らせて、なんども探すことを中断して。
でも、一晩中探した。もう最後は必死だった。
……けれど。