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[Novel:02] -P:01-


 パスタにハンバーグに、フライドポテトと唐揚げ。細い身体のどこにそんな収納場所があるのやら。
 しかもきれいに平らげた晃は「すいませ〜ん」と、まだ店員を呼んでいる。
「チビちゃん…」
「チョコレートパフェと、宇治抹茶パフェ。それからコーヒーのおかわりください。あんたは?」
「結構ですっ」
「んじゃ以上で。よろしく〜」
 にこにこと手を振っているが、まだ食うのかこの少年は。
「おなか壊さないでよ?」
「壊すかよ」
「どーだか。チビちゃんが寝込んだなんてことになったら、今度こそ僕は宏之(ヒロユキ)くんに殴られるよ」
 注いでもらったコーヒーをくるくるとかき回しながら、晃(コウ)は宏之の名前に少しだけいじけた表情を見せる。
「…携帯は?」
「誰の」
「チビちゃんの」
「持ってるけど」
「宏之くんから連絡来てるんじゃない?」
「来ねーよ」
「見もしないでまたそういう…」
「来ないって。ヒロユキの携帯、壊れてるから」
「壊れ…?」
「そ。オレが投げたから、壊れてんじゃない?げしょっとかいってたし」
 コンクリートの壁に叩きつけられた携帯の行方はきっと、産業廃棄物。「それはまた凶暴なことで」と呆れ顔の二階堂(ニカイドウ)は、反対に自分の携帯を取り出し、晃の前に置いた。
「なんだよ?」
「見ていいよ」
「はあ?別にあんたの携帯なんて、興味ねーし」
「後悔するよ?その携帯開いたら、絶対に宏之くんに会いたくなると思うんだけど」
 会いたいというなら、今だってすぐにでも会いたいぐらいなのだが。そんなこと教えてやるのは癪なので、不本意な表情のまま晃は差し出された携帯を開いた。

 暗い画面にぱっと光が灯る。現れた待ち受け画像は、小学生になるかならないか、幼い少女の明るい笑顔だった。
「あんた、そーゆー趣味のヒト?」
 まさに天使の笑顔でこちらに手を伸ばしている少女。
 ロリコン?幼女趣味?なんてアブナイやつなんだと眉を寄せる晃の前で、二階堂は苦笑を浮かべた。
「かわいーでしょ」
「かわいいけどさあ。オッサンの待ち受けにはちょっとどーなんだよ」
「失礼だねえチビちゃんは。僕の天使ちゃんに難癖つけるの止めてくれる?」
「天使ちゃんねえ」
 柔らかそうな黒髪。無邪気な瞳には光が映りこんでいて、キッズモデルでもちょっとお目にかかれない可愛らしさは、天使の名に相応しいけれど。

「どう?似てる?」
「はあ?」
「僕にさ。どっか似てない?」
 ぽかんと口を開いた晃は、慌てて少女の顔を見直した。そうして、目の前の男をもう一度見てみる。
 二階堂はメガネをはずし、宣伝用の顔でにこりと笑った。
「そ…いえば」
 なにやら、こう。柔らかな髪質とか、優しげな目元とか……口元、とか?
「え?なに、え?まさかあんたの子供?!」
「可愛いでしょ」
「マジで?う〜わ〜…遺伝子って残酷ぅ」
 これが行き先?かわいそうに〜なんて二階堂を指差して呆れてやった。
「どーゆー意味だいそれ」
「てか、あんた子供なんかいたんだ?結婚してたっけ?」
 晃の前に巨大なパフェがふたつ並ぶ。甘いものがあまり得意ではない二階堂は、げんなりしながらタバコの箱を取り出した。
「いいかな?」
「どーぞ」
 一本咥えて、火をつけて。
 ゆっくり吸い込んだ紫煙を横を向いて吐き出した頃には、パフェを運んだウェイトレスもいなくなった。
「別れたんだよ」
「…へえ」
「もう二年かな。親権取られちゃったから、あんまり会えないんだけど」


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