[Novel:06] -P:02-
「あ…んっ」
宏之の長い手が、指の間をくすぐっている。
「ちょ、やめ…」
「イヤ?」
こんな風に聞くのは、ちょっとズルい。恥ずかしくて顔を背ける晃の了承を受け取り、宏之はやわやわとふくらはぎを揉んでみる。
すんなりと伸びた足は、女性の丸みこそないが、男のものとは信じられないくらいきれいだ。シミどころか、ほくろのひとつもない身体。白い肌が日に焼けることもないのは、やはり不死の効果だろうか?
片足を撫でながら、もう片方に舌を這わせ、足の付け根に向かって舐め上げるのに、肝心なところには触れようとしない。
宏之は晃の身体を引き起こした。
皮膚の薄い背中に指を這わせ、いやらしいくらい露骨に凹凸する背骨を、指先を引っ掛けながらたどっている。
「あ…ぁ、んっ…」
どこもかしこも性感帯で、どこに触れても晃は甘い声を上げる。この身体をそうさせたのは、残念ながら宏之じゃない。それが少し、悔しくて。嫉妬を込めて、肩に柔らかく噛み付いた。
「やっ…ぁ!」
「痛い?」
「いたく、ないけど、それ…いやぁ…」
傷は、どんなものでもすぐに治る。でも身体に受けた感覚は、心と同じように記憶に刻みつき、忘れることが出来なかった。
痛みでも、快楽でもだ。
宏之に触れられたところから、うねるように生まれてくる熱が、少しずつ集まっていく。もうムリだというくらい何度もイカされたのに、回復が早いせいなのか、またそれが頭を持ち上げて、確かな愛撫を探すのだ。
「や、もう…ひろゆき…さわって」
「触ってる」
「ちが…そこじゃなくて…」
「どこ?」
「どこって…あ、あぁん…」
言葉にならない。声が出ないんじゃなくて、意味のある言葉を、アタマが構成できていない。
散々晃の背中を弄っていた宏之は、放り出すように細い身体をベッドに転がした。
「んんっ!」
「どこが一番感じるのか、知りたかったんだけど」
「ふ、やぁっ!」
「ムダだったな」
全部、イイんだろう?って。意地悪な視線には甘い嫉妬が混じっている。宏之が触るからだ、と言ってやりたいのに、それこそ今の晃の状態ではムダな努力だろう。説明できるだけの理性など残っていない。
ぼうっとした普段の宏之からは想像も出来ないような器用さで、胸の突起を捏ねられて、晃は宏之の手を逃れ、シーツに張り付いた。それでも許されずに、肩を掴まれやんわり仰向けに押さえつけられる。
「あっ…あうっ…んっ」
「コウの手は、きれいだな」
誰だって、手には小さな傷ぐらいあるだろうに。晃の手にはどこにも、傷どころか逆剥けひとつない。理由は聞いたけど。
宏之は確かめるように一本一本、指を口に含んで舐っていった。
涙を浮かべて、晃がべとべとになっていく指を見ている。体型に比例したとしてもなお細い、晃の指。丹念に舐められているから、指も宏之の唇も、濡れててらてらと淡い室内灯の光を返すほどだ。
「あァァ…も、ひろゆきぃ」
太腿に触れる熱がたまらなくて、膝を立て宏之の腰の辺りに擦り付けた。
もう、そこじゃなくて。もっと違うところを舐めて。愛撫に似た行為が、ぞくぞくと晃を震えさせる。
宏之はずるりと口腔から晃の指を引き抜いて、ちゅっと指先に口づけた。
「まだ全然、コウの身体調べてないんだけど?」
「も、いいっ!」
「しょうがないな…じゃあ、一度イく?」
一度も何も。もう何度目だ。
宏之は何度も頷く晃の足を抱え上げ、大きく広げさせた。
「やああっ!」
「なんで?」
いやいや、と髪を揺らすのに。そこは宏之を待ちわびて、収縮を繰り返していた。
短時間に何度も宏之を受け入れたせいで、完全に閉じてはいないところ。本来、性行為に使うはずなどない場所なのに、宏之を欲しがって泣いている。
だらしなく口を開く様が、いっそういやらしく見えていた。
ふっくらと淡く染まっている入り口に、晃なら疑問を抱いたはずだ。