[Novel:06] -P:04-
「ん?」
「いつまでそーして、焦らしてんだよ?入れたかったらとっとと入れろ」
蓮っ葉な口調で言うくせに、ちょっと目元を顰めて見せるのは、身に付いた言葉ではないせいだろう。こうやって肩を張って生きてきたのだ。今まで。
……たった一人で。
「可愛く言えよ」
「何を」
「そんな、意地悪な言い方せずに」
浅く、先だけ中に咥えさせて、少し揺すってやる。晃は慌てたように宏之の背中へ縋りついた。
「っ!あ…やぁっ」
「もっとコウの言葉で言えって」
「ああっ、ヒロ…ュキ!」
「なに?」
自分の言葉、なんて言われても。ぐるぐる思考をめぐらせるうちに、身体の熱ばかりが上がっていく。
何を?なんて?
さあ、どう言おうか?
でももう、身体が先に宏之を欲しがって、騒ぎ立ててしょうがない。
「ふ、あっ!やァァッ!」
「コウ…?」
「…れて!いれて、ヒロユキ!も、ほし…」
「良く出来ました」
まるでセンセイのように褒めてやって、頭を撫でる。晃の片足を肩へ担ぎ上げると、宏之は一気に奥まで貫いた。
「ああっ!や、だめっ!ヒロユキ…!」
「っ…コウ」
「そこヤだ!…んっ!ぁぅ、んッッ!」
「コウ…コウ…」
きつく締め付ける晃の身体をさすって、宏之は何度も名前を呼んだ。何度も口づけて、何度も囁いて。
大丈夫、心配しなくても、ここにいるから。もう晃を一人にすることなどないから。今までいた「誰か」じゃない。
晃を悲しませることは、この先いつかあるだろう。絶対に傷つけないなんて、誓えないけど。きっと傷つけあうだけで別れたり、一方的に傷つけて去って行ったりはしない。
名前を呼んで、身体を撫でて。囁いて囁いて。晃がもうなにも心配しなくてもいいように。そう、今だけでも。
宏之の甘い声に、晃は少しずつ力を抜いた。力を抜くたび流れていく涙が、どんな気持ちを押し流すのか、もうわからない。
だからこそ、ここにいるのが宏之だということだけ、刻む。
次の街で生活を始めるとき、そこにいるのもやっぱり宏之なのだという約束を、自分に叩き込んだ。
「…ふ、っ…ひろゆき…」
「ん?」
「いい、も…うごいて」
「ああ」
ちゅっと額に口づけて晃の手を取り、さっきまで宏之がべたべたに舐め回していた指を、しっかり絡めとった。ぎゅうっと手を握られて、晃が目を開ける。
涙で揺らぐ視界、見えたのはしっかり握られた自分の手と、満足そうに笑う宏之の顔。その、自分しか見ていないワンコの顔を見ていたら、緊張していた身体が一気に緩んで、頬に笑みが上った。
「さがす、から…」
「ん?」
「オレも。ヒロユキのために、できること…さがすよ…」
指を絡めあった手に、ヒロユキがキスを落とした。
「ひぁぁ…あっ…あっ…」
熱い息に、甘い声がひたりと吸いついていく。同じリズムを刻みながら、晃は何度となく宏之の名前を呼んでいた。
声にならなくても、聞こえていなくても、必ず届いているはずだ。
たやすく宏之を飲み込んだ晃の中は、もう互いの熱と思いにどろどろで、どこまでが宏之で、どこまでが晃のものかわからない。いっそこのまま溶けて、宏之の一部になってしまえばいいのに、と泣きたくなる。
その度に、宏之を呼んで、縋る手に力を込めた。
一緒にはなれない。
永遠にそばにいることは出来ない。
だからこそこうして、身体を繋ぐ。熱を分け合う。
自分を愛してくれている人が、確かにここにいることを信じる。
「コウ…コウ…」