[Novel:12] -P:10-
「何か思いついたんだよ、宏之君。だからきっと、そんな重いものじゃなくて…そうだな。チビちゃんが貰っても、まあいいかと思える程度のものを買ってるんだと思うよ」
「それって何?」
「知らないよ。知るわけないでしょ」
「……。じゃあさ」
「うん?」
「じゃあ、オレは何買えばいい?」
余計に難しいよオッサン。
宏之がオレの負担にならないようなものを買ってるなら、オレもその方がいい?やっぱ山のようなコロッケ?イヤだよそれ。クリスマスなのに。
不満そうに言うと、なにやら気付いたことがあるのか、二階堂は笑い出した。
「…やっとわかった」
「なにが」
ニヤニヤと一人納得している二階堂を、拗ねた顔で見上げる。
「元春がチビちゃんに自分達のことを話すよう、言った理由だよ。あのねえ、チビちゃん。椿は確かに何かと元春にプレゼント買うけど、返せない元春には欲しいものなんかないんだよ」
「あ?…ああ、そっか。そうだよな」
高価なものだと当然負担だろうし、安いものだとねーさんは貢いでる気にならないだろうし。難しいだろうな。
「じゃあ椿は、なにを買うんだと思う?」
「…服とか時計って聞いたけど」
「だから、それを選ぶ基準だよ」
基準?なんでそれを買うか?
松井さんは何もいらないんだよな。でも京子ねーさんは贈りたいわけか。え〜?オレだったら何買うかなあ…。
くすっと笑った二階堂は、外してたメガネを掛けながら、すごい秘密を話すように声をひそめた。
「椿はね、自分が欲しいもの買うんだよ」
あっさり教えられた答え。オレは、何度かまばたきを繰り返す。身体を起こして、ちょっと考えるけど。なにそれ。どーゆー意味?
「ねーさんが、欲しいもの?」
「そうだよ。一緒につけて欲しいペアの時計とか、元春に着て欲しい服」
「あ……!」
うわ、すげえ!すげーよ椿サマ!それだったら松井さん断れないし、身に付けることが応えることになるし、ねーさんも見るたびに嬉しいんじゃん!
「すげ、ちょっとオレ、ねーさんのこと尊敬するかも!そっか。そういう手があるか!」
「ふっふっふ。さすがだと思う?」
「思う思う」
笑ってる二階堂は、自慢げに腕を組んで見せた。
「そーだろう?僕が言ったんだよ、椿に」
えええっ!
「オッサンが?!」
「そ。椿が自分の好きなもの買って嬉しそうにしてるのが、一番元春を喜ばせるよってね」
……はあ……。さすがに天下の人気脚本家サマは考えることが突飛だな。
「チビちゃんも、そうしたら」
「…そっか。そうだよな」
「何かないの?自分で欲しいもの。買おうと思ってるけど、なんとなく後回しになってるものとか」
「……ある。」
それだったら、一つだけすぐに思い浮かぶものがある。オレが欲しいもの。一度捨てて、でもずっと宏之のそばにいるって決めたから、もう一度欲しいもの。目をつけてるものもある。
「それにしたら?」
「うん!…って、あああ!」
「?…今度はどうしたの」
時計を見て、オレは思わず顔を顰めた。しまった、せっかく決めたのに!
「店、閉まってる」
「はあ?…まだ七時だよ?」
「六時までだもん…うわ、どーしよう」
オレの欲しいもの、その店でしか見たことない。個人の店だし、他では扱ってないかもしれない。超有名ブランドとかだったら、逆にクリスマスイブの今日なら手に入ったのにさあ……。
がっくり肩を落とすオレに、二階堂は「諦めるのは早いよ」と。立ち上がった。
「どこの店なの」
「輸入雑貨の店なんだけど……」
場所と、店の名前を伝える。少し考える顔をしながら二階堂はなんか、ノートみたいな手帳みたいなのを持って来た。それから、携帯を取り出して。何度か電話を繋いで繋いで、とうとう二階堂は「すぐ行きます」と笑った。
え…オマエ、マジで?!
「オーナーさんが店で待っててくれるってさ。まどか、出掛けるから支度しなさい。チビちゃん、旭希の家行く前に送って行ってあげるから、まどか連れて下降りてくれる?僕は車を出してくるよ」
ぽかんとしているオレの頭を、軽くぽんぽんっと叩いて。部屋の鍵を渡してくれた二階堂は、コートを羽織り美沙ちゃんのケーキを持って、先に家を出て行った。
「…晃くん?いかないの?」
まどかに手を握られるまで、オレは呆然としてた。
ちょっと、アイツ何者なの?!こんな短時間で、店のオーナー突き止めて、直接交渉して、時間外に商品売ってくれる算段取り付けるなんて。前から侮れないヤツだと思ってたし、予想外な交友関係を持ってるのも知ってたけど!
詳しいことは一切話せないけど、戸籍がないから保険証がねーんだ。病院代もバカになんないし、どうにかなんない?なんていう、怪しいオレの相談を聞いて、戸籍を捏造し保険証を調達してくれたのは、二階堂なんだ。