[Novel:12] -P:12-
ベッドの上に、きれいなラッピングが施されてる箱が置いてあった。アレだよな?まさかいまさら、まどかのでした〜とか言わないよな?本気で拗ねるよオレ。
じ〜っとそれを見てると、宏之は困ったような顔をして、オレの髪を弄ってた。言葉に詰まったときの癖だ。
「まあ、とりあえず食う?」
「そ、そうだな」
「美沙ちゃんのケーキ見たか?あれ、クリーム泡立てたのオレなんだぜ」
めちゃめちゃ大変だったんだと訴えるオレの話を聞きながら、宏之がグラスとか皿とか用意してくれる。ちなみにオレは手伝わない。
……いや、確かに今は立つのもしんどいけどね。食器割って怪我される方が迷惑だとばかりに、いっつも手伝わせてくれないんだよ。だから、こうしてるのがいつものポジション。
大丈夫だって言ってんのにさ。包丁も触らせてくんないの。もう治らないんだから、自分で切ったりしないって。
チキンを頬張りながら、AZでフライヤーの袋詰め手伝ったこととか、二階堂のところでまどかに会ったこととか、うまくプレゼントの話だけ避けて喋るオレの話を、宏之が楽しげに聞いてくれる。相変わらず、宏之は無口。
でもいいんだ。宏之に話聞いてもらうの好きだし、喋らなきゃいけないときはちゃんと話をしてくれるの、もう知ってるし。
喋ってるとついつい、視線がチェストの上の紙袋に流れてしまう。気付くかな?と思ったけど、宏之も気が気じゃないのか、ベッドの上の包みを見てて。お互いに、気がそぞろだ。そんなのも、わくわくして嬉しい。そっか。みんな、こんな気持ちを味わいたくて、大事な人にプレゼント買うんだ。
ひとしきり食べて飲んで、お腹もいっぱい。洗い物を済ませた宏之が、片付いたテーブルに手をついて「ケーキどうする?」って聞いてくれた。
「ん〜…」
腹いっぱいだしなあ…宏之もオレも、落ち着かないしなあ。
「後にしようよ。気になることがあるんだろ?あっち行かない?」
と、ベッドのある方を指さした。そこには勿論、隠してもいない包みが置いてある。
溜息をついた宏之もわかったよ、って移動して。どうしたものかとベッドの前で腕なんか組んでんの。オレは意地悪なので、そ知らぬ顔で紙袋置いてきた。
ぺたりと床に座り込んで、お気に入りのクッションを抱き締めた。そのままの格好で、宏之が覚悟決めるのを、上目遣いに待ってる。
二階堂が脚本書いた特撮に出てから、宏之はたまにだけどTVの仕事をするようになった。ドラマの脇役とかね。なまじっか演技力があるから、ド素人のアイドル俳優なんかの横につけられてんの。オレから見る限りは、宏之のほうがカッコ良くて、アイドルくんの下手さが目立っちゃうと思うんだけど。
そうやって仕事の幅が増えたことで、宏之は身体は前よりも逞しくなってる。ジム通って鍛えてるせいもあるかな。細いのは相変わらずだけど、筋肉が前よりバランス良くなって、姿勢が良くなったから、背が伸びて見えるんだ。
こうやって腕組んで、スラリと立ってる姿もカッコイイよな〜。次の舞台に向けて、髪を伸ばせって命じられてるから、今までには見たこともないくらい髪伸ばしてる。いま束ねてるのを下ろしたら、たぶん肩より長い。鬱陶しいらしくて、家ではずっと括ってんだけど、それもまた。首筋が晒されてて、色っぽいんだよ。
…う〜ん。惚れすぎだよなあ、オレ。だから京子ねーさんや二階堂にからかわれるのか?
立ちっぱなしでプレゼントの包みを眺めてた宏之が、ちらりとオレを見る。やっと決心がついたのか、その包みを抱えてオレの前に座った。
「なに?」
なんて聞くのは、意地悪すぎる?
「いや…その、コウがモノ貰うの、嫌いだってことは知ってるんだけど…。せっかくだから、貰ってくれないか…」
しどろもどろに話す宏之は、たぶんビクビクなんだろう。じーっと宏之の顔を見て。怯えるような表情に、くすっと笑った。
「嬉しい」
「え?」
あっさり感謝の言葉を口にしたオレ。宏之はびっくりして、目をぱちぱちさせてる。
「嬉しいよ、オレ。開けてもいい?」
「ああ、いいよ」
受け取って、キレイに結ってあるリボンを解いた。丁寧に止めてあるテープを剥がす、オレの前に現れたもの。
「…!うわ、すげえ!よく手に入ったな!」
「義兄さんに頼んで、手配してもらったんだ」
オレが取り出したのは、この冬に発売開始された例の新型ゲーム機。品薄で、予約も出来ないやつ!欲しかったけど、並ぶまでの根性はないから、騒ぎが落ち着くまでと思って、待ってたんだ。数量考えて売れよな、と愚痴っていたのを覚えててくれたのか!
すごい!めちゃめちゃ嬉しい!めちゃめちゃ嬉しいし、また当たったよオッサン!精神的に重くないもので、オレが喜ぶもの!
オレはそのゲーム機を箱から出して、ひとしきり眺め倒すと、自分の横に置いた。
宏之に向き直ってみると、オレより宏之のほうが嬉しそうな顔してるんだ。そうなんだよ。プレゼントって結局、自分のためにすることなんだ。
「嬉しい!ありがとヒロユキ!」
抱きつくオレを、ほっと息を吐いた宏之が抱き返してくれる。