[Novel:12] -P:13-
「良かった、怒らなくて」
「全然!大事にするから。ありがと」
顔を上げて。ちゅっと宏之の唇に吸い付いたオレは、深く口づけようとする宏之をかわして立ち上がった。
「コウ?」
「ちょい待ち。オレもあるんだ」
「え?何が…」
「待てって。持ってくるから」
てくてく離れてくオレを、宏之は不思議そうに見上げてる。チェストの前で、紙袋から店のオーナーさんがラッピングしてくれた、小さな包みを二つ取り出した。どっちだっけ?確か緑の包装紙が宏之ので、赤いのがオレだっけ。
二つの包みを手にして戻ってきたオレは、宏之のそばに座り込む。宏之はオレの手元を見つめて、驚いたのか目を見開いてた。
「コレは、オレから」
「コウから?俺に?」
「そう。メリークリスマス?」
照れくさくて、笑ってしまう。差し出す緑色の包みを、宏之は躊躇いがちに受け取ってくれた。
「コウ…こういうの、嫌いじゃなかったのか?」
心配そうな顔で、オレを見る。オレはゆっくり息を吐いて、にこりと微笑んだ。
そうだよな。プレゼントなんかいらない!って、言ったけど。その理由をちゃんと話したことはなかった。
「どんくらいまえか覚えてないけど、ペンダントを貰ったことがあるんだ」
「ペンダント?」
「うん。そいつの家に代々伝わってるってヤツで…ロザリオなんだけど。地味な見た目なのに結構宝石とかもついててさ。オレ嬉しくて、ずっと持ってた。…結局そいつとも離れ離れになって、もう会わないんだから忘れようと思ったのに…ダメだったんだよ。自分の首にかかってるロザリオ見るたびに思い出しちゃうんだよな。もう、どうしようもなく苦しくてさ。でも高価なものなんだろうし、せっかくもらったもの捨てられないじゃん。だから…せめて返そうと思って。会いに行ったんだけど…」
「………」
まだ、覚えてるよ。アイツはオレの秘密を知っても、酷いこと何もしなかった。ただ辛そうにオレを見てただけ。視線に耐えられなくなって、逃げたけど。ロザリオ見るたびに、アイツの笑う顔がどうしても見たくて、たまんなくなって。
「…もう、死んでたんだ」
たどり着いたのは、誰も来た気配のない小さな墓。声も上げられないほど泣いたのを、覚えてる。
「そうか…」
「…当たり前なんだよ。オレがその国離れてから、百年近く経ってたんだもん。別れた時だって、アイツ孫とかいる歳だったのに」
宏之がちょっとびっくりした顔をする。ま〜たオマエ、妙な嫉妬してただろ。ぎゅ、て抱きついた。
「オマエの嫉妬するようなことは、何もなかったよ。最初から運命の相手じゃないのは知ってた。オレのこと匿ってくれてたの。領主かなんかやってて、偏屈ジジイで通ってたけど、ほんとはさ。すげー優しいヤツだったんだ」
宏之の大きな手に頭を撫でてもらいながら、思い出す。彼と暖炉の前で話をするのがとても好きだった。普段は無表情なのに、時々笑う顔が子供みたいでさ。笑って欲しくて、一生懸命喋ってたな。
最近のオレは、優しい記憶ばかり思い出してる。嫌なこともたくさんあったのに、宏之の顔見てると、柔らかくオレに向けられてきた顔ばっかり蘇ってくるんだ。
「あの時から、モノ貰うのが怖くて。手放せないものは持たないようにしてたんだけど…もう、いいよな?」
「コウ…」
「ここが、オレの最後の場所だもん。手放せなかったら、ずーっと持ってればいいんだよな?」
宏之見上げて言うオレは、愛しさのいっぱい詰まった視線に絡めとられた。
「そうだよ。ここがコウの最後の場所だ…。おかえり、コウ。たどり着いてくれて嬉しい」
強い力で抱き締められる。宏之の腕の中が、長い旅の終わり。あったかい温度に、ついうっとりしてしまう。
「…開けてもいいか?」
「あ?ああ、そっか。うん、開けて?」
宏之はオレを抱いたまま、ゆっくり包みを開けた。中から長い指が引っ掛けて、取り出したもの。シンプルなシルバーのキーリング。
Hってカタチの両側からリングがついてて、それなりの大きさがあるから何本か鍵はつくけど、ひとつしかつけなくても格好がつくようなデザインだ。…言わないけどさ、Hの真ん中にフランス語で「君を束縛したい」って書いてあるんだよ。…言えるか。恥ずかしくて死ぬからっ!
「キーホルダー?」
「うん。…実はさ、何かはわかんなかったんだけど、ヒロユキがオレに何か買っててくれてるって、美沙ちゃんトコで知ったんだよ」
「え…」
宏之は、かあっと照れた顔になった。ごめんて。知ってたんだって。いやいや、ほんとごめんな?
「それから必死になってヒロユキへのプレゼント考えてさあ。オレ慣れてないから、何買ったらいいかわかんなかったんだもん。美沙ちゃんに聞いたり、京子ねーさんとか松井さんとか…それで、オッサンにね」
「二階堂さん?…また、二階堂さん何言ったんだよ」
すうっと宏之が疑いの目になる。うわあ、信用ねーなオッサン