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[Novel:12] -P:14-


「あはは、大丈夫大丈夫。オッサンがさ、わからないなら、オレが欲しいものにしたらって、言ってくれたんだ」
 あったかい宏之の腕の中で座りなおしたオレは、細いのに逞しい胸に背中を預けて、赤い包みを解いた。こっちは同じデザインだけど、イニシャルがKになってる。
「ここを出て行こうと思ったとき、オレ鍵つけてたキーホルダーも捨てちゃったじゃん。それからってもう、ずーっとそのまんま財布に入れてただろ?いつか買おうとは思ってたんだけど…ヒロユキ?どーした?」
 じーっとオレの手元を見ている気配。
 なに、やっぱちょっとベタだったとか?
「お揃いとかってやっぱ、恥ずかしい?」
 いや、オレもちょっとはそうじゃねーかな〜?と思ってたんだけど。慌てて宏之を見上げると、静かに頭を振ってた。
「なに?」
「コウ、俺そっちが欲しい」
「…へ?」
「交換しないか?俺は、コウのイニシャルの方が嬉しいんだけど」
 ……オマエ、どこまで恥ずかしいこと言うんだよ……。うわ!顔熱い!自分でも赤くなってるのがわかるぞ!!
「嫌か?」
「い、イヤじゃねーけど」
「じゃあ、換えて」
「あの、あのさ。さっきも言ったけど、今日オレ、何買ったらいいか、散々聞いて回ったんだぜ?たぶんAZのメンツはみんな話回ってると思うし…オマエ恥ずかしくねーの?」
「いまさらだろ」
 そういう問題か?!
 こめかみに、宏之の甘えた唇が押し付けられる。な?なんて囁かれたら、抗えるはずもないし。も〜。絶対にからかわれるのに。
「…いいよ。じゃあオレがそっち持つから」
 手にしてたキーリングを渡そうとすると、宏之に二つのリングと一緒に手を握られた。顎を捕らえられて、ゆっくり唇を重ねられて。
「ん…ふ、っ」
 優しく下唇を噛んでくる。口腔の中を舐められた。
「ありがとう、コウ。大事にするよ」
「ん…」
 やばい。身体、熱い。
 宏之はキーリングを二つとも取り上げて、自分が買ったゲーム機の上に置く。そのまま、オレを押し倒した。
 二階堂には微妙な顔で笑われたけど、やっぱり買って良かったな。宏之、喜んでくれたし。これからはイベント事が楽しみだ。まどかの誕生日っていつだっけ?美沙ちゃんや、お父さん達は?誰かに何かを贈るのって、こんなに嬉しいものなんだ。そりゃそうか。自分の大好きな人が喜ぶ顔、見られるんだもん。明日は宏之と、まどかの絵本を見に行く約束してたけど。きっと、クリスマスカラーの街が、オレには今までと違って見えるんだろう。
「コウ…?」
「ん…なあヒロユキ…オレ、幸せでどうにかなっちゃうかも」
「いいよ、なっても」
 ジーンズの上から、そっと撫でられる。いや、そういう意味じゃなかったんだけど……まあ、いいか。


 ベッドがすぐそこにあるっていうのに、オレはラグの上で宏之に抱かれた。大きく押し広げられた足の間、ほとんど服を乱してない宏之が、前をくつろげただけの格好で身体を動かしてる。
「あっ…ん、ああっ…」
 本当はこんな風に、一方的に服を脱がされてされるの、恥ずかしくて仕方ないんだけど。冬の冷たい空気に晒されてる肌を、宏之の熱くて大きな手が這うだけで、ためらいは吹っ飛んでいく。
 宏之が腰を動かずたびに、濡れた肉が擦れ合う淫猥な音がして、体温は上がる一方だ。
「ヒロユキ…ヒロユキ…あ、んっ」
 それしか知らないみたいに、宏之の名前を呼んで。縋るものを探し、手を伸ばす。必ず同じ背中が待っていてくれる。必ず、宏之の手がオレの指を絡め取ってくれる。
 ぼんやり目を開けると、視界は涙で揺れるけど、そこには宏之の整った顔があって。お茶の間でも人気の俳優は、今だけオレのものだ。
「あっァ…ヒロ、ユキ…っいい…!も、っと…してっ!なか、こすって…!」
「っ…は、コウ…」
 可愛い宏之は、オレの言葉に弱くて。卑猥な言葉をわざと使うたび、照れて赤くなるんだけど。こうして、繋がっているときに漏らす声は、オレをより興奮させてしまう。
 色っぽいなあ、って。ほんとに思うんだ。耐え切れずに零れてくる、宏之の艶めかしい喘ぎ声。
「ひ、う…ああっ、ヒロユキ!」
 喉元に吸い付かれ、オレは背中を反らせた。やめて、そこ。弱いんだって!
 必死に宏之の背中へしがみつき、目を開ければ、快楽を求め額に汗を浮かべている宏之の顔があって。これがたぶん、一番オレの気に入ってる顔。
 オレしか見てない宏之。
 オレしか欲しがらない宏之。
 そして、オレが一番欲しかったものをくれた、宏之だ。
 溶けて、どろどろになって、宏之の一部になっちゃえばいいのにって。思うことがある。宏之の目を通して世界を見られたら、そこにはどんな幸福が待ってるんだろうって思う。でも、そんなことしたら、宏之と抱き合うことは出来ないから。淋しいけど、別々であることを受け入れてる。
「あああっ!や、あつ、いっ!」


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