重い足を引きずるようにして、森の中を歩くテオは、身体に力が入らずバランスを崩し、思わず近くの木に手をついた。
そうしてようやく、自分が昨日与えられた食事から何も食べていないことを思い出す。レフの作ってくれた料理は、テオの襲撃に遭ったリュイスが、咄嗟に放り出していた。
―――料理、無駄にしちゃったな…
たとえそれが、テオを仲間に引き入れるための策略だったとしても。
救護室で見つけた自分の剣を使い、ようやくリュイスのもとから逃げ出せたのに。少しも喜びなど沸いてこないのだ。締め付けられるような苦しさは、酷くなる一方。
「…クリスティン様」
まるで呪文のように、テオは国王クリスティンの名を呟いた。
ただリュイスのそばいたくて、そればかり考えていたから。彼の裏切りを思い知った今、テオにとってクリスティンの存在だけが生きる理由になってしまった。
他には、なにもない。
襲い掛かる空虚感を打ち消すように、テオは何度でもその名を呟き、クリスティンという存在に縋ろうとしている。
疲労と空腹のせいでふらふらと歩くテオは、ようやく森を抜けたところに火を焚く第三小隊を野営地見つけて、ほっと息を吐き出した。
―――やっと陛下のもとへ帰れる…
リュイスたち海賊と遭遇してから、何日経っているかわからないけど。第三小隊はテオを待っていてくれた。確実に約束の一週間は過ぎているはず。それでも彼らは、指示された場所で待っていた。
海賊討伐隊の中でも年少の部類に入るテオは、もちろん最年少の隊長ということになる。元々、王国軍の中から選抜された者しか入ることの出来ない、近衛師団にいたテオ。その経歴を見込んでの抜擢だった。
彼の率いる第三小隊は、副隊長も含め年上の者ばかり。まだ少年でしかないテオを隊長とすることに、不服を持つ者も多かった。
それでも彼らは、テオの命に従って厳しい訓練に耐え、戦いの際も力を尽くしてくれている。
今回の任務は、残念ながら失敗に終わったけれど。でもこうしてテオを待っていてくれた仲間がいるなら、たとえ相手が魔族や賢護石(ケンゴセキ)でも、いつか勝利を掴むことができるだろう。
もう、迷ってはいけない。
テオは誓いを新たにする。
最初はただリュイスに会いたいだけで志願した討伐隊。しかし今ではテオも仲間たちと同じ気持ちだ。
海賊が憎い。
自分たちと王家に仇なす彼らを、許すことはできない。
ラスラリエに平和を取り戻すため、強い意志を持って戦うのだ。