剣を手に歩くテオの姿を、見張りの兵士が見つけた。何人かが集まってざわついているのを、テオは苦笑いで見守る。
驚いて当然だ。
矢傷に倒れたテオを、彼らは見ていたのだから。疲れた様子であったとしても、自分の足で歩いて戻ってくるとは思っていなかっただろう。
一度は海賊の手に落ちてしまった司令官として、面目ない思いを抱え、テオは仲間の近くで足を止めた。
「…遅くなって、申し訳ありません」
曖昧に笑って頭を掻くテオが呟くと、兵士たちの表情が変わった。
怯えるようなその顔を見て、テオは首を傾げてしまう。
「どうしました?本物ですよ」
「オーベリ隊長…」
ひょっとして、もう死んでいるとでも思っていたのだろうか。
それも仕方ないと肩を竦めるテオに向かって、兵士たちはすばやく剣を抜いた。
「え…?」
「止まれ!」
今度はテオが目を見開く番だ。
彼らは睨みつけるようにテオを見て、ゆっくりと周囲を取り囲んでいる。
「待って下さい、どういうつもりですか」
「そこで立ち止まれ!」
「立ち止まれって…あの」
状況が把握できずに再び歩き出そうとするテオは、剣を構えなおし今にも飛び掛ってきそうな兵士たちを見て、驚きに足を止めた。
「…何をしているんです」
「動くな!」
「どうしたんですか?一体何があったというんです…」
テオは王宮から派遣された基地に部下の半数を残し、自分と副隊長以下二十数名で廃鉱山へ赴いた。今、テオに剣を向けているのは十人ほどだろうか。その中に、隊長であるテオの不在時、隊を取り仕切るはずの副隊長はいない。
何があったんだろうと首を傾げるテオの見つめる先、焦りの窺える兵士たちの後ろから、探していた副隊長が姿を現す。
彼の表情には、わずかな怒りが見え隠れしていた。それが自分の不甲斐なさに対するものなら当然だと考え、テオは神妙な面持ちで副官に対峙する。
「ただいま戻りました」
第三小隊の隊長として抜擢されたとき、彼が副官として任命されたことには驚いたものだ。
テオとは親子ほども歳が違う。しかも彼はまだリュイスが、元帥として王国軍を率いていたとき、側近だった男だ。
つまり彼のほうが、テオよりずっと高い地位にいたはず。
本人もこの人事がよほど不服だったのだろう。任についてからしばらくは、何かと嫌味を言われていた。
でも最近は、愚痴ひとつ零さずにテオを支えてくれている。この状況も、何か考えがあってのことだろう。
「よく戻られましたな、オーベリ隊長」
「はい。ご心配をおかけしました」