何かから目が覚めたかのように、兵士たちは剣を下ろしてテオを見つめている。戸惑う彼らの視線を厳しい表情で受け止め、テオも切っ先を地上へ向けた。
「体勢を立て直す!他の海賊はいないか、状況の確認をっ」
「は…はいっ!」
「リュイスから目を離すな!奴が一人なら深追いは必要ない!今はこの基地の保全が最優先だ!」
逃げるのではなくここを守るのだと、部下の士気を引きずり上げたテオは、先頭に立ってリュイスに立ち向かう。一緒に牢を逃げ出した二人が、無事に付き従って走ってくるのを確認して、ほっとした。
まだ間に合う。
この第三小隊は、自分が立て直す。
「リュイス!」
テオが剣を振りかざすと、自分のペンダントを取り返したばかりのリュイスが振り返った。副隊長を切り伏せた剣で、テオの攻撃を受ける。
「よくやったな、テオ」
剣を合わせるテオでも聞き取れるかどうかの、小さな囁き。リュイスは見たこともないくらい、優しい笑みを浮かべていた。
たった一声で部下を制したテオに、幼い頃からでも何度かしか聞いたことのない、褒め言葉。
しかしその言葉にテオが気を取られたのも束の間、他の兵士の攻撃を避けたリュイスが剣を振り上げる。
―――危ないっ!
それがテオのことを弟と重ねていた兵士だと知って、咄嗟に庇ってしまった細い背中。止めようのなかったリュイスの剣が振り下ろされ、深くテオを切り裂いた。
「隊長!」
「オーベリ隊長っ!」
慌てて駆け寄ろうとする兵士を、リュイスの鋭い切っ先が威圧する。
痛みの中でテオは、リュイスの舌打ちを聞いた。
「動くな!」
「っ!…リュイス」
「誰も動くなよ?大事な隊長さんがどうなっても知らんぞ」
おびただしい血を流しているテオを抱き寄せ、リュイスは自分の剣をその喉に突きつける。押し当てられた剣は脅しなどではなく、テオの喉を裂こうとしていた。
流れる血を見て、動揺した兵士たちの動きが止まった。
「お前たちが私を追わなければ、そのうち解放してやる。剣を下ろせ」
テオを抱えたまま、リュイスは少しずつ後退を開始した。言われたとおり仕方なく剣を下ろした部下たちは、成す術もなくそれを見つめる。
リュイスに腕を掴まれ、引きずられるようにして連行されていくテオは、かろうじて顔を上げた。
睨み付ける部下たちの視線。自分たちの隊長を捕えるリュイスに向けられた、深い憎しみ。
「オーベリ隊長っ!」
視界が暗くなる寸前、テオは自分を呼ぶ悲痛な叫びを聞いた。
《ツヅク》