【Lluis×TheoC】 P:13


 何かから目が覚めたかのように、兵士たちは剣を下ろしてテオを見つめている。戸惑う彼らの視線を厳しい表情で受け止め、テオも切っ先を地上へ向けた。

「体勢を立て直す!他の海賊はいないか、状況の確認をっ」
「は…はいっ!」
「リュイスから目を離すな!奴が一人なら深追いは必要ない!今はこの基地の保全が最優先だ!」

 逃げるのではなくここを守るのだと、部下の士気を引きずり上げたテオは、先頭に立ってリュイスに立ち向かう。一緒に牢を逃げ出した二人が、無事に付き従って走ってくるのを確認して、ほっとした。
 まだ間に合う。
 この第三小隊は、自分が立て直す。

「リュイス!」

 テオが剣を振りかざすと、自分のペンダントを取り返したばかりのリュイスが振り返った。副隊長を切り伏せた剣で、テオの攻撃を受ける。

「よくやったな、テオ」

 剣を合わせるテオでも聞き取れるかどうかの、小さな囁き。リュイスは見たこともないくらい、優しい笑みを浮かべていた。
 たった一声で部下を制したテオに、幼い頃からでも何度かしか聞いたことのない、褒め言葉。
 しかしその言葉にテオが気を取られたのも束の間、他の兵士の攻撃を避けたリュイスが剣を振り上げる。

 ―――危ないっ!

 それがテオのことを弟と重ねていた兵士だと知って、咄嗟に庇ってしまった細い背中。止めようのなかったリュイスの剣が振り下ろされ、深くテオを切り裂いた。

「隊長!」
「オーベリ隊長っ!」

 慌てて駆け寄ろうとする兵士を、リュイスの鋭い切っ先が威圧する。
 痛みの中でテオは、リュイスの舌打ちを聞いた。

「動くな!」
「っ!…リュイス」
「誰も動くなよ?大事な隊長さんがどうなっても知らんぞ」

 おびただしい血を流しているテオを抱き寄せ、リュイスは自分の剣をその喉に突きつける。押し当てられた剣は脅しなどではなく、テオの喉を裂こうとしていた。
 流れる血を見て、動揺した兵士たちの動きが止まった。

「お前たちが私を追わなければ、そのうち解放してやる。剣を下ろせ」

 テオを抱えたまま、リュイスは少しずつ後退を開始した。言われたとおり仕方なく剣を下ろした部下たちは、成す術もなくそれを見つめる。
 リュイスに腕を掴まれ、引きずられるようにして連行されていくテオは、かろうじて顔を上げた。
 睨み付ける部下たちの視線。自分たちの隊長を捕えるリュイスに向けられた、深い憎しみ。

「オーベリ隊長っ!」

 視界が暗くなる寸前、テオは自分を呼ぶ悲痛な叫びを聞いた。


《ツヅク》