【Lluis×TheoE】 P:01


 診察台の上で膝を抱え、ぼんやり座っているテオは、ただじっと閉じたままの扉を見つめている。
 救護室にリュイスの姿はない。
 見つめている先の扉に、鍵はかかっていない。もちろんテオの身体も、拘束されてはいなかった。
 それでもテオは逃げ出そうとせず、ただ疲れた身体を抱きしめている。

 ―――そういえば、あの時もこんな風にリュイス様のこと、待ってたなあ…

 それは父を亡くしたテオが、リュイスに引き取られる前の話。
 いくらリュイスがテオを引き取ると決めても、すぐには一緒に住むことが出来ず、しばらくの間テオは、別の場所に預けられていた。
 もちろんテオに何か問題があったわけじゃない。

 リュイスの住まいは王宮の中にあった。
 広大な宮殿には、王族やリュイスたち賢護五石(ケンゴゴセキ)以外にも、様々な人々が住んでいる。王宮内で働く者や、その家族など、理由は様々だ。
 そのため王宮では警護上の理由から、宮殿に住む全ての者に対し、厳格な身元調査が行われる。
 名のある軍人を父に持ち、賢護石であるリュイスが後見人となったテオも、例外ではない。警護上の手続きには、他の誰とも同じように、時間がかかっていた。

 許可が出るまでの間、テオが預けられていたのは、王宮から少し離れた児童保護施設。
 ラスラリエの王家は昔から、孤児に対して惜しみない愛情を注いでいたし、そのせいか施設で働く大人たちも、みんなテオに優しかった。友達もできたし、不自由を感じたことはない。
 でもテオは、リュイスを待っていた。
 少しでも早く、あの緑の髪の美しい人のところへ行きたかった。

 近いうちに迎えに来る、と言ったきり姿を見せなかったリュイス。彼がどんな気まぐれを起こして、テオを引き取る気になったのかは、いまだに聞いていない。
 それでもテオは、彼が大好きで。
 唐突に父親を亡くした悲しみを忘れたい気持ちもあっただろう。あの頃のテオは今と比べのもにならないくらい、リュイスの事ばかり考えていた。

 明日は迎えに来てくれるだろうか。
 明後日には会いに来てくれるだろうか。

 そんなことばかり考えて、施設を入ったすぐのエントランスで、膝を抱えていた。
 真正面の扉をじっと見つめたまま、今と同じようにリュイスを待ち続けるテオのことを、大人たちは誰も咎めず、そっとしておいてくれたのだ。

 ―――きっと僕は、あの頃からリュイス様のこと、好きだっんだ…

 そう考えて、テオは顔を赤らめる。