こんなこと想像したこともなかったのに。一度自分の気持ちを認めてしまえば、あとは溢れてくるばかりだ。
きっと出会った時から好きだった。
だからずっとその背中を追いかけた。
リュイスに認めてもらうためなら、どんなことでも頑張れた。剣の修行も勉強も、手を抜いたことがない。
ただ一言「よくやったな、テオ」と褒めてもらいたかったから。
リュイスと一緒に歩ける存在になりたかったから。
―――でも…どうしよう…
泣きたい気持ちで眉を寄せ、ぎゅうっと抱きしめた膝頭に額を押し付ける。
今リュイスは「一緒に来い」と言ってくれている。初めて素直に抱かれた後も、同じ言葉を囁いてくれた。
海賊になんかならなくていい。自分の傍にいればいいんだと。
ようやく自覚できたリュイスへの想い。リュイスもその想いを、受け入れてくれている。
それはとても、幸せで。
本当に本当に、嬉しくて。
彼の甘い声を聞いているときは、思わず頷きそうになってしまうけど。
でもテオは、まだ答えを返せていなかった。
誰よりリュイスが好きなのに。
一緒にいたいと思っているのに。
その気持ちを貫けば、一番大事なものを裏切ることになる。
「…陛下…助けて…」
小さく呟くと、涙が溢れてしまった。
一番好きな人と、一番大事なものが違っているなんて、自分はどこかおかしいのだろうか。なりふり構わずリュイスの腕に飛び込んでしまうのが、正しい選択なのだろうか。
でも、テオには出来そうにない。
たとえどんな理由があっても、このラスラリエという国を裏切り、国王クリスティンを裏切ることなんて。
一番好きな人はリュイスだけど。
テオが一番大事にしたいのは、この国。その頂点に立つ、クリスティンだ。
魔族であるリュイスたちは、ヒトを滅ぼそうとし、国を裏切った。
魔族が王国を乗っ取る気でいるのだとか、第二王子が王位を自分のものにするため魔族を利用したとか。王都には様々な憶測が飛び交っている。しかし全ては想像の域を出ない流言だ。
反乱劇の真相が何なのか、テオにはわからない。それだけはリュイスも頑なに口を開こうとしない。
間違いなくわかっているのは、魔族が国王クリスティンの敵だということ。
リュイスがいくら「自分のそばにいるだけでいい」と言ってくれたって、彼と共に行くということは、魔族の仲間になるのと同じことだ。