「深追いするな」
「しかし!」
「ここで捕えられるとは思っとらんよ。あの人は一人で戦うときにこそ、真価を発揮する。今の我々では歯が立つまい」
「将軍っ」
「今回は君の救出が最優先だった。犠牲を増やすこともなかろう」
「っ…!」
奥歯を噛みしめて剣を下ろしたテオを、将軍はゆっくり振り返った。
「悔しかろうな、オーベリ隊長。しかしここで無駄死にしてどうする。陛下は君の帰還を待っておられるのだ」
「…はい」
「リュイスを許せん気持ちは、我々も同じだ。だからこそ今は王宮に戻り、その傷を癒したまえ。君の強い気持ちがあれば、必ず奴を捕えられる日が来る」
とん、と宥めるように肩を叩かれて、テオは俯いたまま頭を下げた。
自分はもうすでに、国を裏切っているのかもしれない。
こんなにも温かな言葉をかけてもらいながら、リュイスが無事に逃げてくれることを祈っているなんて。
今のテオには、別れを悲しむことも、切なさに嘆くことさえ許されないのだ。
ここにいるのは第三小隊のテオ・オーベリでなければならない。それを決めたのはテオ自身だ。
強い忠誠心で恋心をねじ伏せ、己の正しいと思う道を選択した。
なのにまだ、心が暴れて答えを探しさ迷っている。
何が正しいのか。
何が間違っているのか。
……一番大切なものは何だ。
「あの…隊長?」
ぼんやりした表情で海を見つめ続けるテオの後ろ姿に、部下が気遣わしげな声を掛けた。振り返ったテオは、曖昧な笑みを浮かべてみせる。
心身ともに疲弊しきっていた。
自覚したらもう、立っていられなくて。
「っ…!隊長っ!!」
いきなり崩れ落ちたテオを、部下が咄嗟に抱きとめてくれる。
急速に重くなっていく身体。
すいません、小さく呟いたテオは、遠くなっていく意識に抗わなかった。
《ツヅク》