「あの…勝手なことして、すいません」
「マジでな。アンタが死んでたら、地獄の果てまで文句言いに行こうと思ってた」
「…ごめんなさい」
「ったく、すげえ隊長なんだか、ガキなんだか」
ぶつぶつと文句を言い続ける彼を見て、もう一人がにやっと笑う。
「泣いてたくせに」
「うるせえよっ」
「…泣いて?」
「そうですよ、隊長。こいつ隊長が連れて行かれたのは自分のせいだって言って、一人でリュイスのこと追おうとするし、基地のみんなに止められたら、今度は子供みたいにわんわん泣くしで…」
「いいから黙ってろよ、お前」
むっとした顔が、わずかに赤くなっている。一通りの手当てを済ませ、彼はテオを見つめた。
「髭野郎は更迭された」
「副隊長が?」
「ああ。王宮に向かった連中が、将軍連れて帰ってきたからな」
「そうです、どうして僕なんかのために将軍が…」
「アンタだって、俺なんかのために身体張ったじゃねえかよ」
不機嫌な顔をもう一人の兵士が小突き、テオに向き直った。
「将軍を派遣するよう命じられたのは、クリスティン様です。どんなことをしてでもオーベリ隊長を救い出すようにと」
「陛下がそんなことを…」
「はい。心配しておられたそうですよ…私たちだって同じ気持ちです。皆、貴方を待っています」
部下の言葉に、テオは唇を噛みしめる。
どんなにリュイスが好きでも。今この時でさえ、体中を未練が駆け巡っていとしても。やはり自分は、彼と一緒に行ってはいけないのだ。
二人の手を借りながら、テオはゆっくり立ち上がる。
「まだ戦えるかね?オーベリ隊長」
後ろ姿の将軍に尋ねられ、借り物の剣を握り直したテオは大きく頷いた。
「戦えます」
「上等だ。君の強靭な心には感服するな。さて…逃げられませんぞ、元帥」
「やけに自信ありげだな?私は逃げられると思うがね」
「…確かに貴方の魔力は強大だ。今ここで貴方を捕らえることは、難しいかもしれない。しかし我々には貴様らとは違う、強い結束の心がある」
「…………」
「見えますかな?この少年が。どれほど暴力を与えられても、彼は立ち上がって剣を握る。この強い心に、貴様らの魔力は必ずや屈する時が来る!」
「やれやれ…相変わらずの理想論だな。軍人なら軍人らしく、武力で語れっ!」
先に動いたのはリュイスだ。
すばやく駆け込んできたリュイスは、将軍と何度か剣を交えたかと思ったら、隙をついて踵を返し、包囲の手薄な海側へ駆け出した。
「リュイスっ!」
追いかけようと走り出すテオを、将軍が制した。