「では隊長、失礼します」
「ちゃんと寝てろよ!治るまでは絶対仕事すんなっ」
「お前…ヒラ兵士のくせに。隊長、オレも失礼します。早く良くなって下さいね」
「ありがとうございます」
テオはベッドの上から曖昧な笑顔で部下たちを見送り、彼らが部屋を出て行った途端、ぐったりと枕に倒れ込んだ。
廃鉱山で気を失い、周囲を心配させたテオだったが、彼はすぐに目を覚まし、自分の足で王宮に戻ってきた。
しかし負傷して帰還したテオは、国王に謁見するまもなく王宮の医療部へ運ばれ、自室での療養を命じられたのだ。
いま部屋を出て行った部下たちは、見舞いがてら共に帰還した第三小隊の様子や、更迭された副隊長、処分を受けた兵士たちのことを教えに来てくれた。
テオは両手で顔を覆う。
別に傷が痛いわけじゃない。部下たちに会って疲れているわけでもない。処分を受けた者たちのことで、心を痛めているせいでもなかった。
廃鉱山でリュイスと別れ、王宮に戻ったテオは、ずっと自室のベッドで塞ぎこんでいる。誰が来てくれても、何を聞かされても、その表情に生来の明るさが戻ることはなかった。
副隊長の反乱や、リュイスから受けた暴力は、すでに周知の事実。
テオが傷ついているのは当然と考えているのだろう。周囲の者は誰も、そのことを口にしようとしない。心配そうな顔で回復を待ってくれている者たちに、申し訳ないとは思うけど。テオはそれに応えられないくらい無気力になっていた。
心を占めるのは、別れたリュイスの美しい姿だけ。他のことには何の興味もわいてこない。
あれから三日が経った。
しかしその、わずか三日間という短い時間さえ、テオには永劫の時が流れたように感じた。
リュイスと一緒にいた熱い時間を思い出しては、涙を溢れさせてしまう。自分で決めたはずの別れなのに、胸を突くのは後悔ばかり。
もっと早く自分の気持ちに気付いていれば良かった。
もっと抱き合う時間が欲しかった。
素直にリュイスの背中を抱きしめて、身を任せたのはたった一度だけ。
確かに最初に監禁されていた間、与えられたのは酷い暴力だ。でもその陵辱に、テオの身体は悦んで揺れていた。
頭より身体は素直だった、ということだろうか。
「リュイス様も、悪いんだ」
小さく呟いて枕に顔を押し付ける。
思えばリュイスは何一つ、自分に大切な言葉を囁いていない。
一緒に行こうとは言ってくれたが、好きだとか愛しているという言葉は、聞けないままだ。
もう一生、会えないかもしれない。
だったら一度くらい、囁いて欲しかったのに。