【Lluis×TheoF】 P:02


「会いたい…リュイス様…」

 彼が王宮を出てから一年半もの間、会えなかったのに。この三日の方がずっと長いような気がして辛い。
 会いたい気持ちばかりが増していく。

 今でもテオは、リュイスと暮らしていた西館に一人で住んでいる。
 王宮の端に位置するこの西館は、ワンフロアずつ賢護五石(ケンゴゴセキ)とその家族や使用人の住居にあてられていた。
 だからあの戴冠式の日以降、西館に住んでいるのはテオと、テオの世話をしている使用人が数人だけだ。

 いつもどこか賑わしかった西館なのに、今ではしんと静まり返っていることの方が多い。
 反乱騒ぎの後、住まいを移してはどうかと言われたこともあるのだが、テオはそれを断った。
 ここにはいたるところにリュイスの思い出があって、どうしても離れる気にはなれなかったのだ。

 書斎にあるリュイスの使っていた机。
 居間にはいつもリュイスが座っていたソファー。
 隣の部屋はリュイスの寝室。
 彼が使っていたベッドは、誰が使うこともなく、今もそのまま。
 もう戻ってきてくれないとわかっていても、二度と会えないかもしれなくても、テオはそれらを手離す気になれない。

 溜息を吐くテオが、ベッドの中で身体を小さくし、ぎゅうと己を抱きしめたとき。部屋の外から扉を叩く音がした。

「はい」

 食事を口にしないテオを心配して、身の回りの世話をしてくれている者が、何か運んできたのだろうか?
 申し訳ないとは思うが、まだ何も喉を通りそうにない。
 身体の中は切なさでいっぱいで、水さえ喉につかえてしまいそうなのだから。
 しかし扉を叩いた人物は扉を開けようとせず、誰かと話している様子。
 テオは身体を起こして首を傾げた。

「どうかしましたか?」
「あ、あのっ、陛下が、お見えに」

 緊張で上ずった若い女性の声。テオも驚いて目を見開いた。
 扉がゆっくり開いていく。
 その向こうには、確かに国王クリスティンの姿があった。

「陛下!」
「ああ、テオ。いいんだそのままで」

 慌ててベッドを下りようとしたテオを制し、クリスティンは柔らかく微笑んだまま中へ入って来た。しかしすぐに振り返り、外の誰かに話しかけている。

「テオと私を二人にしてくれないか?私用だよ、時間は掛からない」

 国王の側近たちだろうか。外の者たちが扉を閉めると、クリスティンは再びテオを振り返った。
 緩く波を打つ淡い金色の髪。澄んだアイスブルーの瞳がテオを映している。