「会いたい…リュイス様…」
彼が王宮を出てから一年半もの間、会えなかったのに。この三日の方がずっと長いような気がして辛い。
会いたい気持ちばかりが増していく。
今でもテオは、リュイスと暮らしていた西館に一人で住んでいる。
王宮の端に位置するこの西館は、ワンフロアずつ賢護五石(ケンゴゴセキ)とその家族や使用人の住居にあてられていた。
だからあの戴冠式の日以降、西館に住んでいるのはテオと、テオの世話をしている使用人が数人だけだ。
いつもどこか賑わしかった西館なのに、今ではしんと静まり返っていることの方が多い。
反乱騒ぎの後、住まいを移してはどうかと言われたこともあるのだが、テオはそれを断った。
ここにはいたるところにリュイスの思い出があって、どうしても離れる気にはなれなかったのだ。
書斎にあるリュイスの使っていた机。
居間にはいつもリュイスが座っていたソファー。
隣の部屋はリュイスの寝室。
彼が使っていたベッドは、誰が使うこともなく、今もそのまま。
もう戻ってきてくれないとわかっていても、二度と会えないかもしれなくても、テオはそれらを手離す気になれない。
溜息を吐くテオが、ベッドの中で身体を小さくし、ぎゅうと己を抱きしめたとき。部屋の外から扉を叩く音がした。
「はい」
食事を口にしないテオを心配して、身の回りの世話をしてくれている者が、何か運んできたのだろうか?
申し訳ないとは思うが、まだ何も喉を通りそうにない。
身体の中は切なさでいっぱいで、水さえ喉につかえてしまいそうなのだから。
しかし扉を叩いた人物は扉を開けようとせず、誰かと話している様子。
テオは身体を起こして首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「あ、あのっ、陛下が、お見えに」
緊張で上ずった若い女性の声。テオも驚いて目を見開いた。
扉がゆっくり開いていく。
その向こうには、確かに国王クリスティンの姿があった。
「陛下!」
「ああ、テオ。いいんだそのままで」
慌ててベッドを下りようとしたテオを制し、クリスティンは柔らかく微笑んだまま中へ入って来た。しかしすぐに振り返り、外の誰かに話しかけている。
「テオと私を二人にしてくれないか?私用だよ、時間は掛からない」
国王の側近たちだろうか。外の者たちが扉を閉めると、クリスティンは再びテオを振り返った。
緩く波を打つ淡い金色の髪。澄んだアイスブルーの瞳がテオを映している。