窓を打つ雨の音が、だんだん大きくなる。外の嵐は夜が更けるにつれ、激しさを増しているようだ。
大陸から遠く離れたラスラリエ王国は、絶海の孤島。王都であるショアも海に近く、地形的に嵐に弱い。しかしここがラスラリエである以上、その安全は確かな力で守られている。
そんな安全が守られた嵐の中、王宮の窓を開け外を眺める少年の表情は、暗く沈んでいた。
黄色く見えるほど濃い金色の髪と、同じように見事な金色の瞳。華奢な肢体は十五・六歳に見える。しかし彼は、その何十倍もの時を生きている、魔族だ。
ラスラリエはこの世界で唯一、ヒトと魔族が平等に権利を与えられる国。魔族といっても、ほとんどはヒトと変わらず、少し不思議な力が使えたり、寿命が僅かに長いくらいなのだが。
王宮に住む彼と彼の仲間である賢護五石(ケンゴゴセキ)だけは、特殊な存在だった。
吹き込んでくる雨に、髪が濡れるのも気にならないのか。彼は真っ暗な空を睨むことをやめようとしない。
美しく整った表情には厳しい色が浮かび、顎の細い小さな顔には、怒りとも悲しみとも取れる、激しい感情が窺えた。
彼はこの国の要。
五人の守護者、賢護五石の一人だ。
ラスラリエの建国当時から、転生を繰り返しこの国を守る、特殊な魔族たち。それぞれに与えられている強大な魔力をもって、国の重大な役目を授かり、永遠ともいえる長い時間、ラスラリエを守護している。
ヒトや他の魔族よりも長い時間を生きる彼らだが、別に不死だというわけではない。
確かに彼らは、強大な魔力と、前世までの膨大な記憶、それに彼の見事な金色の髪や瞳と同じく、各々が特徴的な髪色と瞳の色を受け継いでいる。しかし彼らはそれぞれまったく別の人格として、時には性別さえも変え、転生を続けていた。
金の髪の少年は、溜め息を吐いて自分の手を見つめた。
頼りなくさえ見える細い指を、きゅうっと握り締める。
黄の賢護石(ケンゴセキ)と呼ばれている少年。彼は天候を操り、この国の豊穣を司る賢護五石の一人。
もちろん今夜の嵐も、彼が呼び寄せたものだ。
農村地域では種まきが終り、それが根付く頃。王都ショアの周辺には、この時期にまとまった雨が必要不可欠だった。
夜にしたのは、もっとも国民に影響しない時間を選んだから。
彼は己の使命を心得ている。
賢護石という運命に、不満を感じたことはない。
ただ、そう。……せめてもう少し。今の自分があと五歳くらい成長した、大人の姿になっていれば。全ては変わったのかもしれないと、どうしようもない願いが頭を過ぎる。
賢護五石は生まれて五年ほどで、充分に魔力が揮えるまでに成長する。
ラスラリエにとって賢護五石の不在は、致命的だからだ。
豊饒な大地と、潤沢な地下資源。
小さな島国でありながら、ラスラリエが大陸の列強から狙われる理由は、枚挙に暇がない。それを退けているのが賢護石の五人なのだから、たった五年でも彼らの不在は国家の安寧に大きな影響を与える。
強大な魔力ゆえに彼らは、新たに与えられた心と身体を、わずか五年ほどで成長させる。そしてその後は、最も魔力を揮うのに相応しい状態で、死を迎える時まで老いることがない。