【Will x Leff B】 P:01


 ―――貴方のそばを離れない…

 幼い子供の戯言だと、
あの人は思っていたかもしれない。しかし子供の頑なさゆえに、その言葉は確かな誓いとなって、少年の心に刻まれた。
 ずっと、ずっと。
 この人のそばにいようと。
 
 
 
 ……だから、というか。
 こうなったらもう、意地だとでも言う方が正しいのか。
 ウィルト・ベルマンにとって学校帰りの王宮通いは、すでに日課と化している。

「お前もよく続くなあ。もう一年ぐらいになるんじゃないか?」

 すっかり顔なじみになってしまった正面門の門兵たちに呆れられ、ウィルはむすっと唇を尖らせた。

「一年と三ヶ月」
「そんなになるのか!確かに大きくなったもんなあ、お前」

 今度は感心して、つま先から足のてっぺんまで、しげしげ眺められてしまった。
 この一年で、見違えるほど背の伸びたウィル。怪我をして生死の境をさまよい、杖に縋りながら王宮を去った時に比べ、全体的にふた周りくらい大きくなった印象を受ける。
 母に似ていた優しい面差しには、ここ半年くらいですっかり少年らしい力強さが備わっていた。

「じゃあ、そういうことで。失礼しまーす」

 ぺこりと頭を下げ、ウィルは何気ない様子で正面門を通り過ぎようとする。しかし我に返って慌てた門兵に、首根っこを掴まれてしまった。

「おっと!危ない危ない」
「ダメだって言ってんだろうが。レフ様からお前を通すなとのご命令だ」

 ちっ、とこっそり舌打ち。先週はこの手でまんまと城門を通り抜けられたのに。

「なんでだよ。いいだろ、何も悪いことしないし」
「ダーメだ!いい加減、聞き分けろ。お時間のあるときはちゃんと呼んでやるって、レフ様に言われたんだろ?!」

 確かに言われた。
 その名の通り、黄色に近いほど鮮やかな金の髪を持つ、黄の賢護石(ケンゴセキ)レフ。十五・六歳の容姿のまま老いることなく、人知を超えた時間を生きる、少年姿の賢護石。
 麗しい容姿を裏切り、
一旦口を開けば強気で負けず嫌い。レフは優しく自分の看護をしてくれた時と、同じ人物だとは思えないくらい、今はウィルに対して容赦なかった。
 彼からきつく言われたのだ。
 ヒマのあるときは、ちゃんと家まで呼びに行かせる。だから毎日通ってくるのは、いい加減やめろと。
 しかしそのレフの言葉を信じて待っていたら、一ヶ月も放置されてしまった。あれ以来ウィルは、レフの「待て」を聞かなくなっている。

 大体、あの人は自分との約束を違えてばかりだ。
 王宮で治療を受けていた時だって、ずっとそばにいてくれると言ったのに、最後の方は会ってもらえなかったし。毎日レフが食事を作ってくれるって言ったのに、
結局は最初の一度だけだった。
 貴方のそばを離れない、とウィルが言ったときも、わかったと笑ってくれた。
 なのに彼は会うどころか、王宮にさえ入れてくれない。

「ほら、今日は帰れ」

 つまみ出されたウィルは、捕まった拍子に落とした鞄を拾って、溜め息を吐いた。

「しょうがないな…わかったよ。今日は帰ることにする」
「ちゃんとレフ様には、お前が来たことを伝えておくから」
「うん」
「気をつけて帰るんだぞ」
「はぁい」

 肩を落として去っていくウィルの姿を、兵士達は同情の視線で見送っている。