【Will x Leff E】 P:10


「だからと言って、勝手に皇太子を王宮から連れ出すのは、どうなんだろうな?」
「勝手にって…あ!」

 クリスにせがまれ、お忍びで学校へ連れて行った話だ。厨房の隣で話していたことをレフが聞いていたのだと知って、ウィルトはばつが悪そうに頭を掻いている。

「あれは…その。…聞いてたんだ?」
「聞いていた」
「全部、聞いてた?」
「ああ」
「…ごめんなさい」

 しゅん、と肩を落として謝っている。
 ようやく子供らしい顔が拝めて……でも今となっては、もうウィルトに似合わない気がして。レフはふっと表情を和らげた。

「今度やむを得ずクリスを連れ出すことになったら、せめて私に声をかけろ」
「え?」
「私からも諦めるようクリスを説得するが…あの子は頑固だからな。どうしても聞かないようなら、警護のために私が同行する」
「いいの?」
「仕方ないだろう。市井のことを知るのは、確かにクリスのためにもなることだ。ただし、本当はどんな理由でもやめておくべきなのだということを、肝に銘じておけ」
「わかった。…でも」
「ん?」
「オレとしては、レフと二人で出かけたいんだけど」

 じいっと熱っぽく瞳を覗きこまれ、黄の賢護石は肩を竦める。
 この子が成長したのは認めよう。幼い子供のように扱うのも、今後は出来るだけ控えてやりたい。
 ……だからといって、彼の想いには答えられないのだ。

「気が向いたらな」
「それっていつ?」
「いつだろうなあ」
「レフ…ズルい」
「気長に待っていることだ。さあ、残りの作業を急げよ。今日中に終わらんぞ」

 まだ半分残っているイモの山を指差され、ウィルトはがっかりとした顔で「もう飽きたよ」と愚痴っている。
 まだほんのわずか自分より小さい頭を小突いてやって、レフは満足げに立ち上がった。


《ツヅク》