頷いたクリスは、ちょっと眉を寄せて。躊躇いがちに問いかけた。
「ウィル…レフには、本当のことを?」
「言わないよ。言えば止めるに決まってる」
「………」
「あの人は自分が死の淵に立ったとき、オレに諦めろと言った。その発言自体は反省したみたいだけど、気持ちはきっと変わってない。だからオレはもう、レフの命に関して、レフ自身を信用しないと決めたんだ」
賢護石は生まれ変わる。
しかしアルダの代わりも、レフの代わりもいないのだ。彼らは彼らなのだから。
それを一番わかっていないのは、本人達だろう。
クリスの為に命を投げ出したアルダ。
自分を諦めろとウィルに言い放ったレフ。
彼らはそれが、どんなに残酷なことか、きっとわかっていない。
「そうですね」
同じ思いを、同じ誓いを胸に抱く皇太子クリスティンがふわりと笑った。初めて会った日と同じ、花が開くかのような美しく柔らかい笑みだ。
「レフが気安く命を放り出すなら、貴方が拾えばいいだけです」
「そういうことだな」
決意の意思を強い光にして、ウィルの瞳が輝いている。
王都を、レフのそばを離れることに、不安がないとは言わない。でもこのまま、何も出来ない子供のまま、彼のそばにいることなんかできない。
いつ自分も母と同じように、記憶を消され遠ざけられるか、そんな不安に怯えるのは嫌だ。
レフの個人的な都合など通用しない。この国にとって失えない存在に、自分の力でなってみせる。
立ち上がったウィルの姿を、クリスは眩しそうに見つめた。
「待っています」
心から言葉を零したクリスに、ウィルは男っぽい表情で頷いた。
《ツヅク》