【Will x Leff G】 P:12


 すっかり目の冴えてしまっている二人は、朝日が窓から差し込んでくる頃になって、ようやく落ち着きを取り戻した。
 長年一人で苦しみ続けたクリスと、つい何十時間か前に人生で最も辛い経験をしたウィル。光明を見出せた今だからこそ、どちらにとっても一瞬の寸暇が惜しかったのだ。

 ようやくほっと息を吐き出したウィルは、急に昨日の疲れを思い出し、ぐったりイスに身を預ける。クリスは静かに席を立って、弟の様子を見に行った。

「貴方も少し、ここで横になってはいかがです?」
「アルムとお前と一緒に、仲良く並んで寝ろって?冗談も大概にしてくれ。どんな噂を立てられるか、知れたもんじゃない。それに、朝食には顔を出さないと。リュイス様に煩く言われたしな」

 顔を歪めて答えながら、ウィルはテーブルに置いてある地図を手に取った。
 ラスラリエ王国全土の地図だ。王都から遠く、北の山間に印がつけられている。そこがウィルの目指す、王立文殿のある場所。

「サシャの谷は、遠いな」

 ぼそっと呟いたウィルの元へ、アルムの上掛けをかけ直したクリスが戻ってきた。

「向こうへ行ってしまったら、しばらくお会い出来ませんね」
「なんだよ。寂しいか?」
「私ではなく、レフに」
「ああ、まあな…。手紙くらいじゃ、簡単に忘れられてしまいそうだ」
「いい手があります」
「ん?」
「毎年これを、贈られたらどうです?サシャの谷から」

 クリスが地図の分だけ場所の空いたテーブルに、いくつもの包みを置いた。
 それぞれにきれいなリボンがかけられ、切ない想いや感謝の心、皇太子妃への野心がぎっしり詰まっている、木の実の焼き菓子。
 ウィルは途端に、うんざりした表情になっていた。

「出た…。年々増えるな」
「ありがたいと思ってはいるんですけどね」
「来年は助けてやれないからな。頑張れよ」
「大丈夫です、アルムがいますから」
「どうだろうなあ。倍増していくだけじゃねえの」
「倍増?」
「来年辺りからは、アルムも貰うようになるだろ。年を追うごとに増える一方さ」

 ウィルの言葉を聞いて、
クリスまるで思いもしなかったことを言われたかのように、驚いた顔をした。

「クリス…?」

 単にからかうつもりだったウィルは、色をなくしているクリスの様子に、首を傾げた。しかし彼はすぐに、何でもないと首を振って。いつもの、心の中が読めないような、曖昧な笑みを浮かべるのだ。

「そんなに長く、王都を不在にするつもりですか?帰って来た時レフの隣に誰もいないよう、祈っておいて差し上げますね」
「怖いこと言うなよ。母さんとの過去だけでも、オレにとってはデカい壁なのに」

 むうっと拗ねた顔をするウィルを、クリスは真っ直ぐに見つめる。
 本当はレフが誰かの手を取る可能性など、考えてはいない。問題はそこではないのだ。
 ウィルが求めるのは、生涯の研究課題ではない。答えを見つけ、王宮へ戻って、有事の際に立ち会えなければ、何の意味もないのだから。

「では、早急に結果を出さなければなりませんね」
「もちろんだ。十年…いや、五年で戻る。オレの帰還を楽しみにしてろ」
「はい」