毎日のように西館の厨房に通い、料理をしているレフは、当然だが黄の賢護石(ケンゴセキ)としても、忙しい日々を送っている。
天候に関する要望が各地から送られてくるのはもちろん、黄の賢護石は代々、主計局長を兼任しているのだ。ラスラリエの財政は、ほぼレフの肩にかかっていると言っても、過言ではない。
最高責任者であるため、細かい仕事は下に任せてしまうが、一番の重責は資源採掘に関する仕事だ。
ラスラリエの経済はもちろん、商業と農業、それに島国であることから、漁業が大きな位置を占めている。だがそれと同じくらい大きな支えになっているのが、宝石に関わる産業だった。
採掘と加工。唯一の輸出品としても、その役割は大きい。豊富な地下資源は、大陸の列強から独立を守り続けるために、小国であるラスラリエが授かった柱の一つ。
賢護五石(ケンゴゴセキ)と並ぶ、この国の双璧だ。
レフは執務机に、手にしていた資料を放り出した。
毎度毎度のこととはいえ、いい加減、専門外だと喚きたくなる。
「はあ…」
放り出した資料には、いくつかのデザイン画が記載されていた。先日、王都へ持ち込まれた大きな宝石の、加工案だ。
「知るか、こんなもの」
長年、主計局長をやっている。それこそレフだけではなく、代々、黄の賢護石が何百年と、その役割に就いている。
農業や漁業に関しては、天候の左右する要素が多く、指示も助言もしやすい。
しかし本当のところ、宝石なんてこの島国にたどり着くまで、ほとんど見たことも、興味を持ったことさえなかったのだ。
「…まったく。あの時、ヤツの甘言にさえ乗らなければ…」
本当に今さらと言うか。何百年も前の愚痴が、つい口をつく。
再度、重たい溜め息を吐いたレフは、放り出している資料を嫌そうに見つめた。
―――とりあえず、何か飲んで一息つくか…。
立ち上がる気力もないので、誰かに頼もう……そう思った矢先。すっと自分の前に、温かな湯気の立つ茶器が差し出された。
「え?」
「お疲れ様」
驚いて顔を上げると、穏やかに微笑むウィルトがそれをレフの前に置いた。
「お前、どうして…」
「なんか、難しい顔してるから。一息入れないかと思ってさ。邪魔なら下げるよ」
「…いや、いい。貰う」
「うん。良かった」
ゆっくりと机を回って、レフの傍らに立ったウィルトは、肩越しに資料を覗いている。
「オレが見てもいいもの?」
「ああ」
「これ…こないだ持ち込まれた、白っぽい宝石のデザイン案だね」
「そうだ。希少価値の高いものなので、王家が引き取ることになった」
「へえ。でもああいう色、なかなか難しいよな。細々した装飾をつけると、肝心の石が目立たないし。加工しすぎて小さくなったら、せっかくデカいのに意味ないし」
「カットを入れても、輝きが増す類の石じゃないからな」
しかしいくら知識があっても、こういったものは理屈で考えるものじゃない。眉を寄せるレフのそばで、ウィルトは首を傾げた。