【Will x Leff I】 P:02


「そういうのって、レフが決めんの?」
「…どういうわけか、そうなっている」
「でもさあ。前から思ってたけど、黄の賢護石が宝石の管理って、なんかあんまり関係ないんじゃない?」
「私もそう思う」

 王宮には専門の技術者達がいる。意匠や図案などを考える専門家もいる。しかし最終決定権は、黄の賢護石にあるのだ。

 ウィルトに不満を導かれ、レフは顔を顰めて昔話を始めた。

「ラスラリエという国家の基礎を築かなければならなかった時、この宝石をどうするかで揉めたんだ」
「あ、もしかしてみんな嫌がった?」
「その通り。当時はまだ、賢護五石などという大層な名前ではなかったが。我々は誰も芸術や、こういうものの価値に詳しくなかったから…なのに領主殿は、任せると言って逃げてしまうし」

 まるで昨日の事のように話しているが、それはもう千年近い過去の話。レフが無意識に『領主殿』と呼んでいるのも、ラスラリエの始祖のことだ。
 しかしそんなことは追求せず、ウィルトは興味深そうにレフの話を聞いている。

「他のことはどんどん決まっていくのに、これだけ後回しにしていて…。結局、どうしても責任者を決めなければならなくなった時、酒の席で決めたんだ」
「酒の席?!」
「そう。炎の長(オサ)が、面倒だからゲームで決めてしまおう、と言い出して。みんな酔っていたから、妙に盛り上がってしまって…そのまま」

 炎の長、というのも、炎を操る初代の赤の賢護石のこと。子供のように拗ねた様子で話しているレフに、ウィルトは苦笑いを浮かべる。

「黄の賢護石が負けちゃったのか」
「朝には酒も残ってないのに、頭痛がした」
「はははっ」

 楽しげに笑うウィルトの声が心地いい。レフも表情を和らげ、放り出したままの資料を順番に広げた。

「お前はどれがいいと思う?」
「オレぇ?!…勘弁してよ。成分分析や理論構築は得意だけど、美術とか芸術はさっぱりなんだって」
「私も似たようなものだ」
「オレが選んだらその通りにする気?」
「誰が選んでも一緒だろう、私にはわからないのだから」
「オレだってわかんないってば」

 困った顔をしながらも、自然な仕草でレフの肩に手を回し、資料を見つめている。
 ウィルトの顔がすぐそばに並んだ。
 ふわりと甘い香りが鼻をくすぐったのに気付いて、レフの顔が急に赤くなる。

「近いっ!」
「あ、ごめん。そうだなあ…」

 何でもない事のように謝って、素直に身を引く。ウィルトの視線が資料から離れていないことを知って、レフは密かに息を吐いた。
 まるで頬の赤みを取ろうとでもいうかのように、ごしごし顔を擦っていたから……レフは見ていなかっただろう。
 確信犯の笑みが、一瞬ウィルトの口元に浮かんで、すぐに消えたことを。

「ん〜…やっぱ無理。考えた人に怒られそうだけど、オレにはどれも同じように見える」
「役立たずめ」
「そう言わないでよ。…じゃあさ、もう少し選択肢を絞って、王宮のみんなに選んでもらったら?」
「…王宮の?」