突きつけた人差し指で、とん、と軽くレフの胸を叩いて。リュイスは足早にその場を後にした。
周囲に誰もいなくなり、一人だけ取り残されたレフの頭の中で、過去様々な年齢のウィルトが同じ言葉を囁いた。
『ずっと貴方のそばにいる…』
杖に縋ってこの王宮を去ったとき。
やんちゃで手に負えなかった子供の頃。
全身全霊で書き上げた論文の、最後のページ。
そして、穏やかに微笑む落ち着いた青年。
低く響く声が、今ここで囁いているような錯覚に、レフの華奢な手が耳を押さえた。
―――本当に?…お前は、本当に私といてくれるのか、ウィルト…
そんなはずはない、と悲鳴を上げて拒絶する自分。それでも信じたいんだ、と泣き叫ぶ自分。
どちらも同じ自分の声。どちらも身を裂かれるほど悲痛な想い。
でも今、己の心を覗き込めるとしたら。信じたいと思う気持ちの方が、とっくに凌駕しているような気がして。レフはしばらく動けずに、ただ一人立ち尽くしていた。
《ツヅク》