【Will x Leff I】 P:11


 リュイスも自分も。結局、取り残されるだけなのだから。
 顔を顰め、搾り出すように言うレフの言葉を聞いて、リュイスは呆れ顔になった。

「アンタはほんとに。どこまでも根暗だな」

 経験からの忠告。
それをリュイスは「根暗」の一言で片付けてしまう。
 
驚くレフに対し、リュイスは肩を竦めて首を振った。

「どうしてそんな、後ろ向きな答えしか見つけられないんだ?確かにそうさ。たぶん私はテオの一生を見届けることになるだろう。あの子が大人になっても、年老いて死を迎えても、私は変わらぬまま生き続ける。しかしそれは、本当に不幸なことなのか?」
「お前、何を言って…」

 長く思い悩んできたレフの気持ちを、根底から覆すような、リュイスの問いかけ。
 咄嗟に答えられなくて、レフの顔に動揺が走った。
 顔色を失うレフを真っ直ぐに見つめ、リュイスはいつになく真剣な面持ちで、思いもしなかった持論を展開する。

「私はけしてテオの『思い出』になんかならない。あの子の中で常に『現在』であり続ける。もしテオが他の誰かと結ばれても、何かの事情で別れる事になっても。賢護石だからこそ、テオが息を引き取るまで見守っていられるのは、私だけだ」
「リュイス…」
「アンタだって同じだろう?もうアメリアはアンタを覚えていないのに、ずっと気に掛けて見守ってやっているじゃないか」

 レフの答えも待たず、リュイスは踵を返して歩き出した。
 そんな風に考えたことはなくて。
 ただ置いていかれるばかりだと、そう思っていたのに。
 混乱するレフは、ついリュイスを呼び止めていた。

「待てリュイス!お前…」

 足を止めたリュイスは、どこか不機嫌そうにレフを振り返ると、いつものからかう態度とは明らかに違う視線で、じっとレフを見つめた。

「大体な。アンタはとっくにウィルトのことを、対等な相手として意識してるだろ」
「私が?!」
「ああそうさ。ヒトだとか賢護石だとか、うだうだ言っているくせに、ウィルトが男だってことは全然気にしてないし。対等な大人として見てるからこそ、逃げ道ばっかり探してるんじゃないのか」
「………」

 戸惑うレフの元へ戻ってくると、リュイスは人差し指をその胸に突きつけた。

「言っておくが、ウィルトをアメリアの二の舞になんか、させないからな。あいつの研究は今後必ず役に立つ。ウィルトは長年待ち望み、やっと現れた同志だ。私は緑の賢護石として、あいつをアンタの勝手にはさせない」
「リュイス、それは」
「アンタとウィルトがどうなろうと、知ったことじゃないさ。しかし医師としてのウィルト・ベルマンには王宮での役割がある。あいつにはここにいてもらう。
記憶を封じて王宮から追い出すようなこと、絶対にさせない
「………」
「覚悟を決めるのは、アンタの方だ」