リュイスも自分も。結局、取り残されるだけなのだから。
顔を顰め、搾り出すように言うレフの言葉を聞いて、リュイスは呆れ顔になった。
「アンタはほんとに。どこまでも根暗だな」
経験からの忠告。それをリュイスは「根暗」の一言で片付けてしまう。
驚くレフに対し、リュイスは肩を竦めて首を振った。
「どうしてそんな、後ろ向きな答えしか見つけられないんだ?確かにそうさ。たぶん私はテオの一生を見届けることになるだろう。あの子が大人になっても、年老いて死を迎えても、私は変わらぬまま生き続ける。しかしそれは、本当に不幸なことなのか?」
「お前、何を言って…」
長く思い悩んできたレフの気持ちを、根底から覆すような、リュイスの問いかけ。
咄嗟に答えられなくて、レフの顔に動揺が走った。
顔色を失うレフを真っ直ぐに見つめ、リュイスはいつになく真剣な面持ちで、思いもしなかった持論を展開する。
「私はけしてテオの『思い出』になんかならない。あの子の中で常に『現在』であり続ける。もしテオが他の誰かと結ばれても、何かの事情で別れる事になっても。賢護石だからこそ、テオが息を引き取るまで見守っていられるのは、私だけだ」
「リュイス…」
「アンタだって同じだろう?もうアメリアはアンタを覚えていないのに、ずっと気に掛けて見守ってやっているじゃないか」
レフの答えも待たず、リュイスは踵を返して歩き出した。
そんな風に考えたことはなくて。
ただ置いていかれるばかりだと、そう思っていたのに。
混乱するレフは、ついリュイスを呼び止めていた。
「待てリュイス!お前…」
足を止めたリュイスは、どこか不機嫌そうにレフを振り返ると、いつものからかう態度とは明らかに違う視線で、じっとレフを見つめた。
「大体な。アンタはとっくにウィルトのことを、対等な相手として意識してるだろ」
「私が?!」
「ああそうさ。ヒトだとか賢護石だとか、うだうだ言っているくせに、ウィルトが男だってことは全然気にしてないし。対等な大人として見てるからこそ、逃げ道ばっかり探してるんじゃないのか」
「………」
戸惑うレフの元へ戻ってくると、リュイスは人差し指をその胸に突きつけた。
「言っておくが、ウィルトをアメリアの二の舞になんか、させないからな。あいつの研究は今後必ず役に立つ。ウィルトは長年待ち望み、やっと現れた同志だ。私は緑の賢護石として、あいつをアンタの勝手にはさせない」
「リュイス、それは」
「アンタとウィルトがどうなろうと、知ったことじゃないさ。しかし医師としてのウィルト・ベルマンには王宮での役割がある。あいつにはここにいてもらう。記憶を封じて王宮から追い出すようなこと、絶対にさせない」
「………」
「覚悟を決めるのは、アンタの方だ」