Cウィル視点
■王都を離れて旅立つ
■年齢
・ウィル&クリス13歳
・アルム11歳
・ファン8歳
・テオ4歳
■状況
・オーベリ・パパがリュイスを庇って死亡。テオがリュイスの元に引き取られる。
・ウィルは飛び級を繰り返し、王立大学の医学生。
・アルムの気持ちが幼い憧れから、確かな恋愛感情に変化している。
・ファンの身体が急速な成長を始めたものの、そのせいで余計に王宮へは上がれず。
要点をまとめてみる。
街はバレンタイン的な祭で大賑わい。
そこをウィル、レフ、アルムが歩いている。
あまり顔を知られていないアルムは庶民の格好。長年の在籍で顔がバレバレのレフは、頭からマントをかぶった怪しい子供状態。
※祭の詳細
むかしむかし。婚礼の前日に事故で記憶をなくした男がいた。命に別状は無いが、すっかり性格が変わってしまって、恋人にも辛く当たる始末。両家の親は結婚に反対し、二人を引き離そうとする。
別の男に嫁ぐよう命じられた彼女は、最後だからと男の好きだった、ハーブを練り込んだ焼き菓子を作って恋人に届けた。
食べてくれなくてもいい、と話し彼女は届けただけで帰ってしまったが、それを食べた男の方は全てを思い出して、別の男と婚礼中だった彼女を迎えに来る。(ダスティン・ホフマン的な/笑)
以来、この恋人の婚礼に乗り込んできた日にハーブを練り込んだ焼き菓子を贈り、貴方のことを忘れない、とか、ずっと貴方を愛している、と伝える日になった。
自分が母のように貴方を忘れたら、この焼き菓子を作って欲しい。…などというベタな口説き方をして、ウィルが屋台の立ち並ぶ町にレフを誘っていたら、それをうっかりアルムに聞かれてしまう。
行きたい、連れて行け、絶対行く、一人でも行くから!と聞き分けの無いアルム。仕方なくウィルがお忍びの共犯になる。それを聞いたレフが、これまた仕方なく付き合ってくれることになって(アルム警護のため)、ウィル的にはラッキーだった。
熱心に焼き菓子を選んでいるアルムに、誰か渡す人がいるのかと問えば、誰とは言わないのに頷いた。相手がクリスなのはバレバレなのだが、それを口にしないあたり成長したのかもしれない。
これなんかどうだ?と星型の焼き菓子を手にとって見せてやると、アルムは「そういう尖った形は兄上に似合わない」とうっかり喋ってしまう。まだまだ子供だと安心。
ふいにアルムから目を離したとき、雑踏を見つめていたレフが顔色を変えた。
クリス擁護の強硬派がいる。病弱な皇太子の地位を心配し、アルムを排斥しようとしている連中だ。慌ててアルムを探してみれば、案の定、連れ去られる寸前だった。
戦闘となったら、足の悪いウィルは全く役に立てない。ようやく二人に追いつき、レフの魔力でアルムを助け出したものの、代わりにレフが刺されてしまう。
手当てをするものの、全く血が止まらない。医者を呼んで薬や道具を揃えようとする(医学生なのでケガの応急手当ならウィルでも出来るはず。ヒトや一般の魔族相手なら)ウィルだが、レフがそれを止めた。
自分たち賢護石に、普通の治療は出来ない。
愕然とするウィルだが、今は一刻を争う事態だ。
レフの指示に従い、ウィルが肩を貸して、人目を避け王宮に向かう。アルムが襲われたことを知られるわけにはいかない。なんとか警備兵にレフを預け、アルムとウィルは別の門から王宮に入った。
貴方を忘れないなどと、言っている場合じゃない。自分では何の役にも立たない。これではそばにいてもいなくても同じだ。
アルムを女官長に預け、レフの元に向かう。リュイスの手当てが終わって、レフの顔色も戻っていた。安静を命じられているものの、命に別状は無い。
レフの方こそ困った顔で、いまだ立ち直れないでいるウィルを見つめていた。
少し休めというリュイスの勧めで王宮に泊まることになったが、少しも眠ることが出来ない。
与えられた部屋を抜け出し、レフの元へ行こうとするが、顔を見ても何を言えばいいというのか。何も出来ない自分が。
踵を返したウィルは、そのままクリスの部屋へ向かう。
クリスのベッドには泣きつかれたアルムが眠っていた。自分はレフに何も出来なったどころか、アルムを気遣ってやることすら出来なかった。
クリスに勧められ、ソファーにぐったりと腰を下ろしたウィルは、テーブルに例の焼き菓子が置いてあるのを発見。アルムは買えなかったはずなのに。そう尋ねると、クリスは女官たちが持ってきたのだと苦笑い。
そう、王宮の中でも手に入れることは出来たはずだ。アルムを危険に晒したのは自分の責任。
本当に役に立たない。これでは母と同じように、記憶を消されレフから引き離されても、文句が言えない。今の自分では、レフのそばにいる意味がないのだから。
血まみれのレフが脳裏に蘇る。何も出来ずに動揺していた自分。医者さえ必要ないと言ったレフ。リュイスがいたから良かった。もしいなかったら、アルダの二の舞だ。
クリスは賢護石に守られて生き延びた。彼女の命を犠牲にしてしまった。クリスなら自分の気持ちをわかってくれるかもしれない。
本当に賢護石には医学的な治療が出来ないのか?今までに善意でも悪意でも、賢護石の身体を研究した者はいないのか?
問いかけるウィルにクリスは、もしいたとすれば、その研究成果はサシャの谷にある、王立文殿に納められているだろうと告げる。
許可が無ければ入ることすら出来ない、王立文殿。しかしクリスは自分が後ろ盾になろうと申し出てくれた。
そばにいるという誓いを、破ることになるかもしれないけど。近い場所にいることだけが、そばにいる、ということではないだろう。ウィルは王都を離れる決心をする。
王都を離れる前日、王宮に泊まったウィルは夜中にレフの元を訪れ、強引に唇を重ねた。
戻ってきたら、離さない。自分はレフの為、この国にとってかけがえのない存在になる。だから、待ってて。
もう子供の戯言では済まない。熱っぽいウィルの視線や唇に、レフが動揺している。
翌朝、ウィルは一人で王都ショアを旅立った。
※変更点はアルムの気持ち。全体的な流れはそのままで。