「お前のような人間は、屑以下だ。誰の権威を笠に着ているのか知らないが、そんなものを強さだと思っているなら、いっそこの場で腹を捌いてしまえ」
言い捨てるなり、泰成にコートを投げつけて走り出す。頼りないくらいの背中を見送りながら唖然としていた泰成は、しばらくしてくすくすと笑い出した。
日本を離れた遠い地で見つけた、興味深い玩具。泰成と惺の出会った夜だった。
出かける用意をしている泰成の傍らで、コートを手に待っていた来栖秀彬は、溜め息をついて主を見上げる。
「…また、あの人のところですか」
嫌味な言葉に泰成は肩を竦めるだけだ。
惺と出会って半月。出会った翌日には惺の居場所を突き止め、それからの泰成は毎日のように彼の元へ通っている。
惺のことを調べてきたのは自分だと言うのに、来栖はそんな主の行動が不本意で仕方のない様子。
「お前は惺が気に入らないか?」
「ええ」
「ははは。相変わらずお前は容赦ないな」
不機嫌な表情を崩さないまま、それでも来栖は泰成の肩にコートを着せている。
「得体の知れない人ですよ」
「だから面白いんだろ」
「遊ぶならもっと、適当な相手にしませんか」
お目付け役だと言われて泰成と共に英国まで来たが、自分などがブレーキになるとは思っていない。来栖は生まれたときから泰成の片腕になるよう育てられているが、だからこそこの泰成の実力も性格も把握していた。
泰成はゆくゆく、笠原家の当主になる人間だ。それが足繁く誰かの元に通うなんて。しかも相手は、泰成がどういった立場の人間かを知りながら、拒絶し続けているのだという。
(……ごめん、タイムアップ……この先は改めて相談させてください)