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代々この町で生きていても、店主の家の始祖は流れついたゲルマン人だったから。
一緒に逝かせてくれと希望したところで受け入れられることはない。しかし犠牲を出さない一族は、けして町に受け入れられない。
この町の結束の強さは、全てこの呪わしい因習に起因している。
生贄となる領主の横行は全て通され、女たちは町の男と一緒になるのを嫌い、男たちはいつか来るかもしれない運命のときを思って、下を向く。
「侯爵様はお優しい方だ…そのせいか、スミス様はこの因習を守ることに、固執していらっしゃる」
「だから殺すって言うのか?代々の歴史の中に、他の地から移ってきた者を抱えている、何の罪もない人々を」
まだ信じられなくて、泰成が声を尖らせると、店主はふいに違う話を始めた。
「今の奥様は、何も知らされずに嫁いで来られたのだよ」
侯爵夫人、シルヴィア。悲鳴を上げて執事を恐れていた、可哀相な人。
惺の身体を強く抱きしめる泰成が、ふっと眉を寄せる。
「彼女はこの地の者ではないのか?」
「いや…かつてこの町を逃げ出した家族を探し出し、何も知らずに育った娘を、スミス様が強引にお迎えになったのだ。シルヴィア様はこの町へ嫁いで来て初めて、全てをお知りになった…」
憎しみで以って探し出され、連れて来られた少女。おそらく娘可愛さに町を逃げ出し、抵抗しただろう両親がどうなったか、泰成は考えたくもないと思った。
彼女はきっと、夢を見たかったのだ。
自分を愛し、連れ出してくれる男の夢。だから泰成に執着した。
翻弄される妻を哀れんで、侯爵は可能な限り、彼女のしたいようにさせてやったのだろう。
彼が出来る、精一杯の優しさで。
「…狂ってる…」
吐き捨てるように呟いた泰成は、震えの止まらない惺を抱きしめたまま、秀彬に手を差し伸べる。想像も出来ないような恐ろしい話に怯え泣いていた少年は、しゃくりあげながら泰成の腕に縋りついてきた。
――一刻も早く、ここを出なければ。
両腕に抱えた、愛しい重さ。
目を閉じて二人を受け止めた泰成は、ゆっくりと瞼を上げ、牢の入り口を睨みつけた。
<ツヅク>