「あなたが何かに困ったときは、必ず私を思い出してくれ。…違う時間の流れを生きる惺に、どれだけのことが出来るかはわからないが…今後、もし私が死んでも。何代先になっても。必ず笠原の名の者が、あなたを守る」
それは裏も表もない、正直な気持ちだった。自分には力があると、言い放ったときとは違う。
「いつまでもあなたを守れるように、強くなる。…誓うよ、惺」
未来永劫、泰成の名と共に、厳命が笠原家を支配するように。必ず強くなる。本当の意味での力を、手に入れる。
「…わかった」
哀しげに唇を噛み、きっといままで何度も経験してきた別れを、同じだけの苦しみで受け止める惺を痛ましく見つめて。泰成はふっと表情を和らげた。
「もちろん、私がいるうちに連絡をくれるのが、一番望ましいんだけどね」
「そうだな…考えておく」
こちらも表情を柔らかくした惺が、静かに身を屈め目を閉じた。重なる唇の温かさに、お互いが泣きたいような気持ちでいることを知る。
二人は顔を見合わせて、微笑んだ。
<了>