「古来からの方法に則るべきか?なら、私が先に名乗ろう。私の名は泰成。笠原泰成という。天下泰平の泰に、成功の成だ」
微笑さえ浮かべて名乗る泰成に、一瞬呆れた顔を見せた男は、すぐに眉を寄せる。
「誰が聞いたんだ、そんなこと」
「で、あんたは?」
「答える義理はない」
再び歩き出した男を見て、泰成は立ち止まったまま肩を竦める。名前ぐらいで何をそんな、もったいぶっているんだろう。
しかし泰成の、その一瞬の隙をついて、男が素早く駆け出した。
「っ!…おい、待て!」
慌てて追いかけたが、この街に詳しいのか男は、何度も角を曲がって、ついに姿を消してしまった。
しばらく一人で駆け回りながら男の姿を探したが、見つけられずに足を止める。
はあ……と息を吐き、顔を上げた泰成は笑っていた。
―――面白い。
さっきまで感じていた不満も、退屈も、吹き飛んでいる。
目も眩むような美貌を備え、撃たれても死なない人。助けてやった泰成に噛み付いて、後ろ盾ではなく自分に物を言っているんだと諌めた男。
泰成は滞在しているホテルに向かって歩き出した。
役に立ったら倍額払ってやる、という約束だ。
明日シルヴィアに会ったら、占わせる内容はもう決まっていた。
≪ツヅク≫