とくに役者は容色に自信がある分、身体を使って泰成を誘う。何人か相手をしてやったこともある。
女にはない、男の持つ美しさを、知っているつもりだったけど。
目の前を歩く男は、彼らと何もかもが違っていた。
黙って後ろを歩き続ける泰成に焦れたのか、男が足を止めて振り返る。
「どこまでついてくる気だ?」
「あんたの行くところまで、かな」
「いい加減にしろ。帰れ」
「嫌だね。…そういえばあんた、どこまで行くんだ?」
男は応えず、また前を向いて歩き出してしまう。
少し足を速めて横に並んだ泰成を、鬱陶しそうに見上げた。
「好奇心は猫をも殺すと言うだろうが」
「堪能な日本語だな。聞き慣れない声で母国の言葉を聞くのは久しぶりで、新鮮だ」
首都にいた頃ならともかく、この街に来てからは、日本語を喋る者など、自分と従者の少年くらいだったから。
嬉しそうな顔で勝手に話す泰成を見て、男は再び足を止めた。
「…どうしたいんだ、お前は」
「とりあえず、名前が聞きたい」
「聞けば立ち去るのか?」
「そういう交換条件みたいなことが好きなのか?」
揶揄するような言葉が気に触ったのか、男はむっとした表情になった。
そういう表情さえ、興味をそそられる。
艶めかしい、という言葉が泰成の中に浮かんでいた。
そう、なんというか、所作のひとつひとつが艶めかしい。
冷たくて、誰も受け入れない頑なな心を感じているのに、手を出したくなる。
「私がいまだ、あんたが警官に撃たれたことや、撃たれたはずの傷について追求しないのは、どうしてか。気にならないか?」
「追求したいなら、勝手にすればいいだろう?」
「答えてもらえない問いかけをするほど、愚かじゃないさ。だから、答えてくれそうなことを聞いてるんだ」
「…………」
「あんた、名前は?」
だんだん面白くなってきていた。
この男に、何でもいいから関わりたい。そんなことを考えたのは、生まれて初めてだ。
性懲りもなく同じことを尋ねる泰成に、男は眉を寄せる。
誰もいない裏路地で、殺人現場になってもおかしくない、凄惨な場面を見た後に、この屈託の無さはなんだろうと。静かな瞳が探るように泰成を見つめている。
その表情に何を思いついたのか、泰成はにこりと笑って見せた。