目指す娼館は、街の中心を少し外れたところにある。
いかがわしい商売の店が立ち並ぶこの辺りを、街の人々はウエストエンドと呼んでいるらしい。すっきり整えられ、街の人々の手で掃除が行き届いた中心部とは違い、昼間でもどことなく暗さを感じるような場所だ。
明るいうちから生気のない顔で座り込み、何をするでもなくぼんやりとたむろしている人々が、前を通る泰成(タイセイ)たちに気付いて顔を上げる。しかし彼らはそれが異国人の二人連れだと知り、すぐに興味を失って下を向いた。
「…どこへ行く気なんだ、一体」
逃げないことを条件に手を離すよう、ようやく泰成を説得した惺(セイ)が、眉をひそめて囁く。
逃亡を危惧しているのか、それとも単にくっついていたいだけなのか。握っていた手を離したものの、ぴたりと惺に寄り添って歩く泰成は、さっきから何も言わず肩を竦めるばかりだ。
「泰成」
「もう着く」
「…何度目だ、それ」
むうっと口を尖らせ、不機嫌さを露にしている惺。やけに子供っぽい表情を見せられ、微笑んだ泰成は目的の娼館の前で立ち止まった。
「ここだ」
「ここ…?」
見上げる建物は、この辺りの他の場所とはいくぶん雰囲気が違っている。
遠目に見れば立派な屋敷に見えないこともないだろう。しかしその豪華さが、薄っぺらい見掛け倒しだということは、すぐにわかった。
豪華に見せかけている分、いかがわしい建物。露骨なぐらいの娼館だ。
「お前…時間を弁えたらどうだ」
日の高いうちから来る場所じゃない。
低い声で惺に言われ、泰成はにやりと口元を吊り上げた。
「別に女を買うつもりではないのだから、時間は関係ないだろう?それともついでに相手をさせるか?」
「馬鹿を言うなっ」
「だろうな。じゃあ行くか」
「行くかって、お前は本当に…おい泰成!待ちなさいっ」
「いいからいいから」
適当な返事を返すばかりの泰成は、惺の腕を掴んで勝手に中へ入っていく。
入ったところはがらんと広いロビー。調度品はいちいち豪勢に見せかけているが、どれも粗末なものだった。
勿論今は、完全に営業外の時間。現れた泰成に驚いて、娼館を取り仕切る年老いた女が、座っていた椅子から立ち上がった。
「こ、これは…旦那」
「シルヴィアを呼びたまえ」
居丈高な泰成の言葉に、老婆は目を白黒させて、奥に通じる廊下と泰成の顔を見比べている。
「はあ…シルヴィア、でございますか?それはその、部屋におりますがね…まだ日も高こうございますよ。こういう場所にもそれなりのしきたり、というものがございましょう…」