【この空の下にG】 P:10


 泰成に示され、黙って二人の話を聞いていた秀彬が、シルヴィアに向かいぺこりと頭を下げる。「そう」と呟いた彼女は、手にしたカードを繰りながら、緊張した面持ちの少年に微笑みかけた。

「名前を聞いてもいいかしら」
「はい。来栖秀彬と申します」
「…ヒデアキ、と呼んでも?」
「もちろんです」
「なら、ヒデアキ。気持ちを落ち着けて…楽にしてちょうだい。怖いことなんか、何もない。ここにはあなたのご主人様もいるでしょう?」

 優しく語るシルヴィアに、秀彬の緊張も少し解けたのか、表情が柔らかくなる。
 二人の様子に泰成は、背もたれに身体を預け、同じだな、と興味深く思いながら見つめていた。
 シルヴィアも、惺も。
 どちらも他人を寄せ付けないタイプなのに、相手が秀彬だと強く出ることが出来ないらしい。

「占いが教えてくれる答えは、とても曖昧なものなの。それを事実に沿って分析するには、情報が必要だわ」
「わかった。ならば、占いの結果が出てから状況を話した方がいいんだな?」
「ええ。そうなるわね」

 細かく繰っていたカードをテーブルに戻したシルヴィアは、何度か深く息をして、カードの山に手を押し当てた。

「ヒデアキ…テーブルに手を置いて。彼と最後に会ったことを思い出して」
「はい」
「タイセー、貴方はテーブルに触らないでちょうだい」

 邪魔だから、と嫌味っぽく続けるシルヴィアに何も言わず、泰成は少し椅子を後ろへずらせて、テーブルに触らないよう腕を組む。素直な態度に、シルヴィアは苦笑いを浮かべてから、目を閉じた。
 泰成が初めて自分の占いに対し、全幅の信頼を寄せてくれたのだ。彼女は占いに集中し、ゆっくり目蓋を上げる。

「…あなたも彼に会いたいの?ヒデアキ」
「はい…お会いしたいです」
「なら、強く願いなさい…彼に会いたいと願うのよ。居場所を知りたい、彼に会いたい、その姿を思い浮かべて…」

 囁く言葉は、しだいに呪文のようになっていく。秀彬が静かに目を閉じた所で、彼女はカードをゆっくり展開させていった。



≪ツヅク≫