【この空の下にG】 P:09


 ふうっと息を吐いてから、泰成の顔を見つめた。

「それで、今日は何を?」
「調子は戻っているのか」
「ええ…でも、前と同じ用件なら断るわ。私には占えない」

 きっぱり言い放った彼女に、泰成は柔らかい表情を浮かべる。
 出会ってから初めて見る、泰成の穏やかな微笑みに、シルヴィアは困惑を隠せないようだ。

「貴方…どうかしたの」
「ま、色々あってね」
「そう」
「私は未だかつてないくらい、貴女の占いを頼りにしているんだ」

 正直すぎる泰成の言動に、シルヴィアの困惑は深くなるばかりだ。

「…それで?」
「占って欲しいのは、先日ここへ来た男の所在だ」
「また逃げられたの…いい加減、諦めたらどう?」
「ははは、そうじゃないさ。彼は今、窮地に陥っていて、私は彼を助けたい。それだけなんだ」
「………」
「改めて聞くが、シルヴィア。貴女の占いには、どれほどの情報が必要なんだ?具体的な経緯や、わかっていることが多い方がいいなら、先に状況を話すが」

 横柄に占いを要求し続けた男が、一変して丁寧な質問を始める。困惑が深まるばかりのシルヴィアは、真意を探るように目を細めて泰成を見つめていた。
 それも仕方のないことだろう、我が身の所業が招いたことだ。泰成はそう思って、少し肩を竦めて見せる。

「快楽に溺れて逃げるのを、やめたのさ」
「?…どういう意味?」
「覚えていないかね。貴女が私に言った言葉なんだがな」

 泰成の言うことがわからず、しばらく首を傾げていたシルヴィアだったが、その状況を思い出したのだろう。彼の劇的な変化はそのせいか、と小さく笑った。

「成長したのね」
「だと、いいがね」

 自嘲するような笑み。
 以前、泰成が言っていた「女が自分を放っておかない」という言葉。今ならシルヴィアにも、その台詞が理解できる。この娼館にいる女だって、今の泰成には夢中で指名されることを求めるだろう。
 すっかり変わってしまった泰成に、こっそりそんなことを考えていたシルヴィアだが、軽く頭を振り余計な思考を頭から追い出すと、改めてカードを手に取った。

「占い自体に情報は必要ないわ。必要なのは強い思いや、その人の気配なの。彼と最後に会ったのはいつ?」
「一番近い時間に彼と会ったのは、私ではなく、この子なんだ」