犯人が捕まり、事件が解決して、一週間が過ぎている。
その間、毎日のように警察から呼び出しを受けていた笠原泰成(カサハラタイセイ)にも、ようやく今日になって、街を出る許可が下りた。
こんなに手間取るとは思わなかった、と彼は一人疲れた表情を浮かべ、滞在先のホテルへ戻ってきたところだ。
なにしろ犯人である市長が、最後に監禁し殺そうとしたのは惺(セイ)だったが、彼には身許を証明するものが何もない。
彼はどうやら想像出来ないほど長い時間を一人で世界をさ迷っていたらしく、戸籍も何もかも抹消されてしまっているのだ。そもそも彼に、一度でも戸籍というものが発行されているのかさえ、わからない。
せめて祖国にいるなら笠原の力でなんとかしてやれるのだが、遠く離れたこの国ではいかんともしがたい。
身許のはっきりしない惺を、参考人として招致させないためには、色々と手順が必要だったのだ。
本人が何かと言えば「めんどくさい」と逃げてしまうため、仕方なくこの件は泰成が引き受けることになった。
また泰成が市長を犯人だと断定した根拠にしても、シルヴィアの占いでは証明することが出来ない。
この国は魔術や占いなどを信じているわりに、そういったものを扱う人間に対して冷淡だ。しかもシルヴィアは、泰成に買い上げられるまで娼館にいた。
せっかくその手を借り、協力してもらった彼女を、晒し者になど出来るはずがない……と、それは泰成ではなく従者の来栖秀彬(クルスヒデアキ)があまりに訴えるので。
彼女を参考人として招致させるわけにはいかず、この件も泰成が引き受けてやるしかなかった。
となれば、拘束されたにもかかわらず、唯一無事に開放された秀彬のことも、泰成が引き受けた方が話が早い。
今まで面倒ごとは、全て放り出してきた泰成だと言うのに、結局彼は全てを任されて、事件の後始末に奔走することになったのだ。
それもやっと、今日で終わり。
泰成は一通の封筒を手に、ホテルのエレベーターを降りた。
廊下に設置された大きな鏡を覗き込んで、泰成はまじまじと自分の顔を見る。
両親にまで呆れられ、とにかくほとぼりが冷めるまで帰ってくるなと祖父に命じられて、国を出てきた我が侭な御曹司。