【この空の下で】改訂版 プロット
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イギリス(仮)留学時。19歳の笠原泰成。
彼は首都にある仮住まいの屋敷を離れ、幼い従者(来栖秀彬)だけを連れて、この町に滞在している。多少、陰気なくらいの何の変哲もない田舎町だ。
ここで起きている連続殺人事件に興味を持ち、正直な所を言うなら「猟奇殺人事件の現場や犯人を見てみたい」という悪趣味なことを考えて、滞在していた。
夜な夜な起こる殺人現場を探して、街を徘徊している日々。単に興味を惹かれているだけで、解決しようとか犯人を逮捕しようとか、そういう正義感はない。
今日でもう一ヶ月。なのに泰成は殺人犯と遭遇していない。殺人だけは三日と置かずに起きているが、不思議と出会えないでいるのだ。
今日も今日とて、飽きもせずに町を歩き回っている。
「…デマか?あのインチキ占い師め…」
この町の娼館で出会ったシルヴィアという女の占い師。怪しい美貌を持つ彼女に占ってもらって、泰成は今、指定された裏通りに立っている。もちろん泰成は占いの類を信じないのだが「貴方の運命が待っている」なんて興味深いことを言われたので、物は試しとシルヴィアの言葉に従ってみたのだ。もしこれで殺人犯に会えれば、シルヴィアが何かしらの情報を持っている、と言うことになるのだし。
やはりあんなイカれた女の言葉を信じるんじゃなかった……。一晩を無駄にしてしまった泰成は、明日出直そうと踵を返す。そこに銃声が聞こえた。
―――この先は前のまま、惺と泰成の出会い。ただし名前を聞きだせずに終わる。
A
15歳の家令候補、来栖秀彬の主人は最近、やけに楽しそうだ。十日ほど前までは、くだんの殺人鬼に会えず、苛々しているようだったのに。
犯人が捕まったと言う話は聞かないし、泰成の口からもその話がほとんど聞こえてこない。ようやく諦めたのか?秀彬は本人が怖がりだということもあって、今回の殺人鬼探しに消極的だった。もういっそ、早く首都の屋敷に帰ってしまいたい。
「楽しそうですね、泰成様」
今晩も出掛けると言う泰成の身支度を整えながら、聞いてみる。殺人鬼には興味を失っているようなのに、泰成はいまだに毎日、夕方から朝まで出掛けている。楽しいよ、と答える泰成に秀彬は口を出さない方がいいんだろうかと躊躇うが、やはり心配になって何をしているのか聞いてみた。にやりと笑う泰成の答えは「かくれんぼ」。いっそうワケがわからず首を傾げる秀彬を置いて、今日も泰成は夜の町へ出て行った。
そう、泰成は今、かくれんぼに夢中になっている。ただそれは泰成の勝手な思い込みで、相手に遊んでいるつもりはない。
毎晩のように町を歩き、懲りずに隠れているせいの姿を探している泰成。見つけられたら、泰成の勝ち。勝負事には強い方だ。最初は二日に一度くらいしか見つけられなかったが、ここ二・三日で見つけられない日はなかった。ようやく惺の行動パターンを掴めてきたからだ。
見つけた夜はいつも、強引に惺を抱いてしまう。最初こそ物凄い勢いで抵抗されたのに、今では諦めたのか、やる気もなさそうに相手をしてくれている。でも泰成からの質問には全てノーコメント。まだ名前も知らない。
B
今夜も泰成は、惺を見つけた。
古い教会の廃屋にその姿を見つけ、嬉しくなって駆け寄る。泰成の姿を見た惺は、うんざりした顔。
「よほど暇なのか?」と問う惺に、泰成は「あんたを探すのに忙しい」と何食わぬ顔で言ってのける。まさかこんな所で手を出したりしないだろう?惺に言われた泰成は、それもそうだと惺の腕を掴んで歩き出した。
明るい月の下、抵抗する気の失せている惺と一緒に歩く。珍しく泰成の言葉に答える惺を見て、泰成は改めてその名を尋ねた。―――ここも前のシーンを流用。惺は泰成に名前を教えてくれる。
今日はどうしたんだ?と聞く泰成に、惺は「疲れているだけだ」と答える。探している人物が見つからなくて、もう面倒になってきているのだとか。
誰を探しているんだと問われ、惺は古い知り合いの末裔(と言うかどうかは未定)を探しているのだと言う。エマという名前しかわからない女性。泰成は少し思案して、探すのを手伝おうと言い出した。この町に長いシルヴィアなら、居場所を知っているか、もしくは例の「占い」で何かを教えてくれるかも。
お前には関係ない、と突っぱねる惺だが、明日会う約束をしてくれれば、今日はこのまま帰ってやるという泰成。引き下がる気のない泰成を見て、惺は渋々頷いた。