C
今日は昼からお出掛けの泰成。身支度を手伝う秀彬は、そういえば殺人犯が捕まったと聞いたが、もういいのかと問いかける。
確かにもう興味は失せていたが、一応どんな人物かと聞いて驚いた。東洋人だと言う犯人の特徴は、惺が捕まったことを示している。
きっとどうでも良くなって、言われるままに捕まってしまったのだろう。楽しげに笑った泰成は、警察へ惺を迎えに行く。
お前の助けなど要らない、惺はそう言うが、泰成は得意の「顔とコネと権力」で惺の身柄を引き受けてしまった。一応まだ容疑者なので、泰成もろとも町から出ないでくれと要請される。惺をそばへ置けるならと、泰成は満足げだ。
せっかく助けてもらったのに、全然感謝する気のない惺。でも泰成は大して気にしていない様子。そのまま惺を連れて、シルヴィアに会いに行く。惺を見て何かに気づいたようだったが、彼女は「まだ運命がエマを隠している」とかなんとか、適当なことを言って居場所を教えてくれなかった。
D
まあ泰成にとって、エマとかいう女の存在など、問題ではない。
連日のように警察が押しかけてきたり、秀彬が言うことを聞かなかったりするが、初めて自分から欲しいと思った惺を手元に置いておける今の状況は、悪くない。
お前には殺人犯の目星はついていないのか?惺に問われても、肩を竦めてやり過ごした。あの時、初めて出会った夜に惺を撃った人間なら、探し出せないこともないが、犯人が捕まれば惺を留まらせる理由がなくなってしまう。
まだまだ続いている殺人。惺は泰成に「お前は最低だ」と言ってのける。その会話から泰成が犯人を知っているのだと気付いた秀彬が、思い切って泰成を諌めた。
「犯人がわかっているのに放置しているなら、貴方が殺しているのと同じです」
だからどうか、と懇願する秀彬を、泰成は突き放した。幼い従者が自分に意見するなんて、あってはならないことだ。
秀彬を追い出した泰成に、惺は「必ず後悔する事になるぞ」と呟いた。
E
秀彬がいなくなった。
泰成が犯人を知っているのだと気付いた彼は、なんとか自分の手でその人物を突き止め、泰成が疑われたりする前に警察へ届けようと思ったのだ。
自分でも驚くぐらい、動揺する泰成。だから後悔すると言っただろう?冷たく言われて、惺にやつ当たってしまう。
その日の晩に、泰成の元へ手紙が届けられた。犯人からだ。
惺と秀彬の交換を要求する犯人の手紙を読んで、泰成は唇を噛む。警察もシルヴィアも手を貸してくれない。あと出来ることがあるとすれば、自分が傲慢に拘束し続けた惺へ頭を下げ、罠だと承知の上で行って欲しいと頼むことぐらいだ。
人に頭を下げるのが、何より嫌いな泰成。しかし秀彬不在の状況に、今まで彼がどんなに必死で泰成を支えたか、改めて知った。
秀彬を助けて欲しい。惺に懇願する。過信していた自分の力では、何も出来ないと認めた。打ちひしがれる泰成を見て、惺は溜息をつく。
「お前の為じゃない」
懸命に生きる一人の少年を救うためだ。
惺は犯人の要求通り、一人で罠の待ち受ける指定場所へ向かった。
F
朝を迎え、一睡も出来ないでいた泰成の元に、秀彬が警察に保護されたという知らせが届く。急いで迎えに行くと、惺の事情を知らない秀彬は、自分の代わりに惺が殺されてしまったと泣いている。
とにかく秀彬を引き取って、泰成は本格的に犯人を捜すことにした。
今まで下げたことのない頭を下げ、情報を整理し、シルヴィアにも助けを願い出た。もう、なりふりなんか構っていられなかった。
傷を負わないことも、死なないことも知っている。それでも惺を助けたい。まだ自分は、惺を危険な目にあわせた謝罪と、秀彬を救ってもらった感謝を伝えていない。
ようやく犯人が見えてきた。泰成は惺の救出に向かう。
G
犯人は警官ではなく、元警官だったこの町の町長(市長?貴族?誰でもいいけど)。
屋敷ヘ踏み込み、地下牢に拘束されていた惺を救い出す。また一人で無茶をしたのか、と呆れる惺は屋敷の外へ出て驚いた。屋敷には警官が溢れ、犯人が逮捕されている。もう自信過剰なことをするのはやめたんだ、と泰成は笑った。
使えるものは使う。最速最短で物事を解決するためなら、無駄なプライドなんか必要ない。
大きく成長した泰成の姿に、惺は目を細めた。